来年4月の2025年大阪・関西万博開幕まで5カ月を切る中、大阪が強みとする「ライフサイエンス」をテーマに出展準備を進める国がある。欧州の小国ベルギーだ。パビリオンの展示プログラムには、けがや病気の後、完全な健康体に戻れなくても、より楽しく生きようという人生哲学が通底する。こうした「ウェルビーイング」の考え方に基づく展示は、陶器を修繕する日本の伝統技法から着想したという。
地上3階建て(約1千平方メートル)のパビリオンは独自に設計・建設するタイプA。万博テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を踏まえ、生きる上で欠かせない「水」をコンセプトとし、外観は固体、液体、気体の水の三態をイメージした。
ライフサイエンスに注力
デザインや設計を担当した建築家、シリル・ルソー氏らによると、ベルギーは北海や湖、河川を活用した物流で発展し、医薬品などの分野で日本や米国をはじめ海外から投資を呼び込んだ歴史的背景がある。
ルソー氏は「ベルギーは水とともに発展してきた国。水を大切にすることは生命を守ることにつながる」と強調する。
現在は国をあげて健康や医療分野での技術革新に注力しており、ライフサイエンスをテーマとした展示を通じ、先進技術や医療機器、医薬品などをアピールする。
「持続可能性」と通底
パビリオンでは、来館者それぞれのデータに合わせて、健康改善や最新投薬治療の提案を受けられるほか、人工知能(AI)やロボットを使った予防医学を学びながら、未来の健康管理についての「旅」を体験できる。
展示には、最新技術によって「外見が変わっても自分を長く愛せるように」との思いを込める。こうした理念は、欠けたり割れたりした陶器を、漆を用いて修繕する日本の伝統技法「金(きん)継ぎ」から生まれた。
使い慣らした家財などは古びて壊れた後も手入れし、少しでも長く、美しく使う-。日本古来の物持ちの精神は、現代で重視される「持続可能性」につながり、ベルギーを含む欧州でも評価されている。
国際博覧会ベルギー政府代表委員会のアルドゥイン・デッケルス上席係長は「壊れた後にどう付加価値をつけるかといった点について、陶器と人間は似ている。人生をいかに楽しく、豊かに送るか。展示から考えてほしい」と呼びかける。
館内で名物グルメも
館内は、障害の有無に関係なく共通の体験ができるユニバーサルデザインのスロープを整備。体験後にビールやチョコレート、ワッフルといったベルギー名物を楽しめる屋上レストランを併設した。本国からシェフを呼び、関西近郊で獲れた魚や肉でつくるベルギー料理も提供する。
財政上、採算が取れないとして万博参加を見合わせる国もある中、デッケルス氏は「半年間にわたり自国をPRできるチャンス。プロモーション費用としては高くない」と言い切る。その上で「ベルギーは小国でも、他国と協力して価値を生み出す素地がある。万博を通じて日本や他国との関係をより深く築き、成長につなげたい」と意気込んだ。(石橋明日佳)