日本酒や本格焼酎などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録するよう、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が勧告した。麹(こうじ)を用いた伝統的酒造りの担い手である杜氏(とうじ)の数は、後継者不足で平成29年ごろまで減少の一途をたどり、最盛期の5分の1以下になる危機的な状況に陥ったが、近年は持ち直している。
酒造関係者によると、杜氏組合が技術を伝える研修機会を設けるなどして、酒造りに興味を持つ若者が増えたことや海外での日本酒ブームを受けて息を吹き返しているという。
技術伝承に注力で変化
全国の杜氏有志で昭和37年に結成された「日本酒造杜氏組合連合会」に所属する杜氏は、最も多かった40年には3683人いた。しかし、麹を育てて原材料を発酵させる手作業の難しさなどから後継者が育たず、杜氏の数は高齢化とともに年々減少。下げ止まる気配もなく平成29年には681人まで激減した。
こうした状況に危機感を持った杜氏組合は当初の互助組織としての機能だけでなく、技術の伝承にも力を入れる組織へと転換を図った。
各地の酒造技術者らでつくる「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の宇都宮仁副会長は「若い人に酒造りの研修をすることで一時に比べて状況は改善している」と話す。同年を底に杜氏数はわずかに上向き、令和4年には712人となった。
それでも、「日本酒や焼酎を飲む人が少なくなり、産業規模が小さくなるとどうしようもない」(宇都宮副会長)。
国内消費量の減少は懸念材料だ。国税庁によると、国内の清酒の販売(消費)数量は平成24年度の59万キロリットルから令和4年度には40万キロリットルにまで落ち込んでいる。
無形遺産登録で海外展開に弾み
一方で、近年は米国や中国を中心に日本酒の人気が高まっている。
平成24年に89億円だった日本酒の海外輸出額は令和4年には、5倍超の475億円になった。5年は411億円と減少したが400億円台は今後も維持しそうで、海外への販路拡大の重要性は増している。その意味でも、無形文化遺産に登録されることによる経済的な波及効果は少なくない。
宇都宮副会長は「酒や焼酎は何百年という歴史と神事、地域共同体と結びついている。評価された素晴らしさはこれからも継承していく。その魅力をさらに世界に広げていきたい」と述べた。(楠城泰介)