警視庁職員が入庁後、最初に心構えや集団での行動を学ぶ警察学校(府中市朝日町)。警察官となれるよう若者を鍛え上げるこの施設に、今年産経新聞に入社した記者が一日入校し、同年代の学生らと訓練や武道を体験した。厳しい指導、悲鳴を上げる体-。苦しい体験の中で感じられたのは、教官たちの「愛」だった。(梅沢直史)
「大楯」を装備
午前8時40分、1時限目と2時限目を通して、高卒の学生らが取り組む「大楯操法」の訓練に参加した。大楯とは、デモの警備などの際、機動隊員らが持っている重さ約5キロのジュラルミン製の防具だ。
まずは動作の確認。楯を持って「右向け右」「左向け左」「回れ右」などの指示を受け、「おう!」と掛け声をかけながら一斉に動きを確かめる。記者と同じく学生らもこの訓練に臨むのはこの時が初めてで、表情からは緊張感が伝わってくる。
「活発に動け!」「楯があっても基本的な動作は同じだぞ!」
部隊での活動を想定したこの訓練では、大きな声を出して素早く、そろえて動くように教官から注意の声が飛ぶ。動きがそろわず、部隊が弱く見えてしまえば、暴徒化した集団を受け止めることはできない。
続いて構えに移る。対象が前にいる▽前から突っ込んでくる▽上からの投石がある-など、状況を想定した構えを取り、指示に合わせて変えていく。
肉体の限界が…
楯を向ける方向や角度はさまざまだが、基本的には両手で持った楯を地面から浮かし、突き出す形を保たなければならない。時間とともに、疲労から手首が内側に曲がってくれば「〝ネコ〟になってんじゃねえぞ」と、あちこちで教官の怒号が飛ぶ。言われてみれば、曲がった手首は猫のようだ。
「昔は『やれと言ったらやれ』という考え方だったが、今は理由を説明するようにしている」と学校の担当者。ネコにならないようにするのは、楯に衝撃が加わったときに手首を負傷するのを避けるためで、厳しい指導も「ここで厳しくしておかないと、現場では誰も叱ってくれないから」だという。全ては学生を育てるための「愛のむち」なのだ。
必死な学生の姿を見て、記者も気合を入れる。握力が尽き、気持ちで支えようとするが、普段使わない筋肉は応えてくれない。こらえきれずに楯が下がるが、学生たちは、初めてにも関わらず支え切っている。日頃の鍛錬の差が出ているのだろう。
最後には楯を持ったまま、学校の敷地内をおよそ1周半ランニング。距離にしておよそ2・5キロ。取っ手を中指から小指の3本に掛け、楯の角を脇に挟んで支えた状態で、声を出して息を合わせながら走る。学生たちにもラクな姿勢ではなかったようで、終了後、昼食を取る際には、みな「楯を支えていた左手をうまく動かすことができない」と口をそろえていた。
強い意志実感
午後は大卒の学生らが取り組む剣道に参加した。学生らは有段者と初心者に分かれて稽古に入る。警察官に武道は必須。警察学校を卒業してからも毎朝取り組むことになる重要なものだ。警察学校では基礎づくりをしているレベルだと聞いたが、この日は暑さの中、学生らは小気味良い音を響かせていた。子供のころ剣道を「かじった」ことがある記者は、40分ほどで体力が尽きてしまった。
実感するのは、都民、国民の治安を守る警察官の基礎にあるのは「体力」だということだ。警察学校では、運動のカリキュラムが連続することがないようにしているが、毎日何かしらのトレーニングを行うという。
記者の体験はわずか4時間だったが、「心技体」を鍛えるべく、厳しい訓練に取り組む学生たちからは、「都民の安全と安心を守る警察官になる」という強い意志を感じさせられた。