早いもので、2025年が始まった。子どもの頃は一年が長く感じていたものだが、最近ではもう過ぎ去ってしまったのかという気分になる。きっと今年も去年を惜しむうちに一月が過ぎ去ってしまうのだろう。
そんな時間感覚に多少なりとも抵抗するために、一月くらいは温故知新という言葉に甘えながら先人の知恵に学ぼう。
今回紹介する『土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―』は、小説家の水上勉が禅寺で修行した経験を活かし、月々の食材と相談しながらの料理の日々を描いたエッセイだ。
禅宗においては日常の様々な雑務も仏道の一環として捉えられており、当然料理や食事もその中に含まれる。作中でも度々引用されるが、日本において曹洞宗を広めた道元禅師の著作にも「典座教訓」という禅寺の調理係における心得を示したものがある。
そんな禅寺においては、小僧達は日常の料理やその支度を通じて兄弟子や和尚から色々な教えを学ぶこととなる。材料も庭に作った畑と相談しなければならないし、それらを無駄には決してできない。今でこそ捨てられてしまう野菜の皮や皮の周りの食べにくい部分など、そうしたものも無駄にしない調理が求められるのだ。
皮付きのくわいを焼いて塩を振ったものや、里芋をゆでて山椒味噌と一緒にといったような素朴な料理の味は、土の力による材料自体の味に依拠している。こうした料理を味わう日々が、まさに土を喰う日々なのだ。
読んでいるうちに、自分もこうした日々を送れたならば、より充実した、自然と共に生きることが出来るようになるのかと憧れを抱くこととなる。
もっとも、いつも一月の発心が続くのは三日くらいなのだが。
(将棋棋士 糸谷哲郎八段)