ラグジュアリーホテルではしばしば、マリー・アントワネットをイメージしたスイーツビュッフェが開かれます。やはり彼女は、甘いもの好きの王妃として印象づけられているのですね。
出身のハプスブルク家には菓子専門部門まであったそうですから、子供の頃から甘いものは大好きだったに違いありません。ですが、実際にどんなものを食べていたのかは、ほとんど記録が残っていないのです。
仮に侍女たちが書き残していたとしてもフランス革命で紛失したでしょうし、恋人との書簡もわずかしか現存していません。一方で、離宮の一角に農家風の家を建て、スイスから酪農家を呼び寄せ、牛を育て、乳搾りの真似事(まねごと)をしていたくらいなので、乳製品を好んでいたことは確かです。
特にフロマージュ・グラッセと呼ばれる氷菓が好物だったとか。ベルサイユ宮殿には地下深く掘り下げた氷室があり、氷が冷やされていました。氷菓は上下に氷を入れたセーブル焼の専用器で供されたのです。
ファッションと同様に、マリー・アントワネットの周囲には、当時のフランスの最新のお菓子がたくさんあったことでしょう。優雅で気まぐれな王妃は、お菓子に関しても〝フランスらしさ〟を象徴する存在だったのです。
大森由紀子
おおもり・ゆきこ フランス菓子・料理研究家。「スイーツ甲子園」(主催・産経新聞社、特別協賛・貝印)アドバイザー。