Infoseek 楽天

黄金色に輝く北海道美瑛町の小麦 牧歌的な風景は地元の夏の風物詩 彩時記~8月・葉月

産経ニュース 2024年8月2日 8時0分

灼熱(しゃくねつ)の東京を離れて北海道の真ん中へ-。十勝岳連峰の山麓に広がる美瑛(びえい)町を訪れると、7月下旬というのに、夏を通り越し、秋の風情すら感じられる風景に出合った。

秋蒔(ま)き小麦の畑。収穫を終えた場所には、大きな円柱状の「麦稈(ばっかん)ロール」がぽつんぽつんと転がり、風に乗って乾いたわらの香りがする。この牧歌的な風景が、地元では夏の風物詩なのだとか。

麦稈ロールは、刈り終わった畑に残った麦わらを専用機械で巻き集めたもので、直径が1メートル50センチほどもある。地域の酪農家らに届けられ、敷きわらとして牛や豚の寝床に使われる。

「そして酪農家からは堆肥をもらって畑に入れる。そういう農家同士の循環システムが昔から出来上がっているんです」

小麦の生産者、鈴木福太郎さん(47)がそう教えてくれた。

続いて始まった春蒔き小麦の収穫は今月初旬に最盛期を迎える。刈り取りのときを待つ畑は黄金色に輝く大海原のようで、ここも実りの秋の景色に似ていた。

鈴木さんが「『春よ恋』という品種です。ちょっと食べてみますか?」と、手のひらに数粒のせてくれた。赤みを帯びたその色に〝小麦色〟の意味を初めて知った。やわらかく、嚙(か)めば嚙むほど甘みが広がる。水分量が多いこの状態では、収穫には早いという。「連作障害を防ぐために基本的には同じ畑で2年続けて同じ作物は作らない。人も、環境を変えたほうがリフレッシュできるでしょ」

小麦、ジャガイモなど区画ごとに異なる農作物の彩りが織り成す、「パッチワーク」のような丘陵の景色。植える畑を年ごとに変える輪作によって、おのずとパッチワークの絵柄も毎年変わる。季節の中でさえ、色は変化を繰り返す。初夏、一面に広がっていた緑のグラデーションが、季節が進むにつれて黄金色、赤色と、その色を変えていく。私が目にしたのも一期一会の夏景色。自然と人の営みによって育まれたものだから心動かされる。(榊聡美)

旬の和菓子 わらび餅

美瑛で宿と茶房を営む武部輝久さんが、夏の和菓子を代表する「わらび餅」を作ってくれた。コシのある弾力と口溶けのよさがわらび餅の魅力。もちっとした食感と、香ばしいきな粉の風味がよく合い、口の中で、すうっと溶けた。

「極微粉のきな粉でないと、ザラつきのない口溶けは出せません」

この「美瑛きなこ」(100グラム、600円~)の開発を手掛けたのが武部さんだ。甘みとコクが強い美瑛産の大豆「ユキホマレ」を焙煎(ばいせん)した後、皮をむいて極限まで細かく製粉。こだわりの「細かさ」が滑らかな食感を生む。液状にした「美瑛きなこ蜜」(1300円)も、観光客にじわりと人気が広がっている。

「豆類は美瑛の主要作物。美しい景観が続くように、少しでも農業に貢献できたら」

この記事の関連ニュース