《旅行のとき、列車の中で友達とギターでグループサウンズの演奏をしたところ、乗り合わせた2人組の女の子が、渡したギターでビートルズの「恋におちたら」を、しかも英語のハーモニーで弾き語りし、立場のなかった三宅さん。だが、本当に恋に落ちることに》
高校2年生のとき、大恋愛をするんです。
きっかけは、西神田小学校のクラス会です。高校ぐらいになると、女性のほうが大人になってるんですよ。男は全然ダメ。だからすごい色っぽくてきれいで。もう一目ぼれですよね。
クラス会が終わってみんなが帰っていく中で、俺とその子、あともう1組残って。その4人で喫茶店とかに行ったのかもしれないんですけど。
「じゃあ、送っていくよ」って言って、帰る途中に次のデートの約束をしました。
デートでは映画「ウエスト・サイド・ストーリー(邦題、ウエスト・サイド物語)」を見に行ったのを覚えています。立ち見でしたけれど、彼女と一緒ならうれしいですよ。
《「ウエスト・サイド・ストーリー」は1961年公開のアメリカのミュージカル映画。ニューヨークのウエストサイドを舞台に、非行少年グループの対立に巻き込まれる、若い2人の恋愛の悲劇が現代版「ロミオとジュリエット」として大ヒットし、アカデミー賞を10部門、受賞した。監督はロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス。主演はナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー。レナード・バーンスタインの音楽も評価された》
彼女とつきあうつもりでしたから、大学では就職に有利な経営学部を選んだんです。クラブに入らないで、彼女と学園生活を楽しむつもりでした。映画「若大将シリーズ」のように。
《「若大将シリーズ」は俳優、加山雄三氏がスポーツと歌の得意な大学生、若大将こと田沼雄一を演じる東宝の青春映画。昭和30~40年代に製作され、大人気となった。作品ごとに得意なスポーツは変わるが、エレキギターも演奏した。恋人役を星由里子氏らが演じた》
私が加山さんで、彼女が星さんになるはずだった。
ところが、大学に入学したとたんに別れてしまったんですよ。
ちょっと待ってくれ、と。すべて恋愛を想定していた設計の前提が崩れてしまったわけです。人生って厳しいな。
大学へ行っても彼女がいないから、つらいんですよ。寂しくって仕方がない。それで、高校のときに一緒に落語研究会(落研(おちけん))にいた友人が大学でも落研に入ったので、電話して、また入部したんです。
もし彼女と別れるのだったなら、明治大学では文学部に演劇学専攻があるから、そこへ入学したかもしれません。でも結局、演劇の道へ進んだのだから、運命とは面白いものだと思います。
《一方で、大学でも仲間とバンドを組んで活動を継続していた。そのころはジャズへ傾倒していく三宅さん。再び、音楽とお笑いの日々を送ることに》
映画といえば、私は座席を取るのがうまかったんです。
今と違って入れ替え制の映画館は少なくて、しかも自由席ですから。それで前の回が上映中というか終わるころ、目と耳を塞いで入場する。そして立ち見している人たちの間を通って一番前、スクリーンの脇に行くんです。
映画が終わると、座っていた人たちは通路に出て後方の出口に向かって帰るので、その後ろに付いていく。こうやってスクリーンセンター付近の一番いい席に座るんです。
だから、みんなからは「関取(席取り)」って呼ばれてました。相撲取りじゃないんだから。(聞き手 慶田久幸)