奈良国立博物館(奈良市)で、正倉院宝物を公開する「第76回正倉院展」が開かれている。今年即位1300年を迎えた聖武天皇ゆかりの肘(ひじ)置きといった至宝が目を引くほか、仏にささげる貴重な品を納めた美しい箱など精緻な器物も魅力的だ。
会場では、57件の宝物を「正倉院宝物のはじまり」「煌(きら)めきの調度」などのテーマに分けて展示している。「祈りと技の工芸美」では、箱など高度な技術がうかがえる工芸品がずらりと並ぶ。
このうち、「緑地彩絵箱(みどりじさいえのはこ)」(奈良時代)は貴重な品物を納めて仏に献じたと考えられている箱で、緑色の地に赤色や橙(だいだい)色などで花文が施されて華やか。周縁には金箔を貼って赤色、黒色で斑を描くなど工夫が凝らされている。寄木細工の「沈香木画(じんこうもくがの)箱(はこ)」(同)も仏にささげられたとみられ、ジンコウやシタンなど高級な舶来(はくらい)の素材を用いている。
一方、誦数(じゅず)を入れたらしい「赤漆柳箱(せきしつのやなぎばこ)」(同)は縦20センチ、横19センチの小さな箱。ヤナギの枝を丹念に編んで、漆塗装を施しており、手づくりの温もりも伝わってくる。
同館の三本周作主任研究員は「それぞれ個性的な箱。こうした箱を見ても、当時の仏教に対するあつい信仰が高度な技術や贅沢な素材にあらわれている」と話している。正倉院展は11月11日まで。