近年、台風やゲリラ豪雨による水害が激甚化、頻発化している。今年も全国で集中豪雨が相次ぎ、記録的短時間大雨情報が出された8月21日には、東京メトロ市ケ谷駅や麻布十番駅周辺で浸水被害が発生した。都市が雨をためる「保水力」が注目される今、首都圏最大級の雨水貯水槽を誇る東京スカイツリー(墨田区押上)の地下空間を訪ねた。
都市型洪水対策
取水口から取り込まれた雨水はパイプを伝って地下の貯水槽へ―。平成24年に開業したスカイツリータウンには、降り注ぐ雨をためる仕組みが当初から整えられている。まるで昨今の異常気象を予見していたかのようだが、背景には、海抜ゼロメートル地帯の多い墨田区特有の事情があった。
同区では昭和50年代からたびたび都市型洪水に悩まされ、降雨の活用と水害対策に備えるようになった。環境政策課の菜原航課長は「内水氾濫(排水処理能力を超えた雨が降ったときに起きる浸水被害)防止や防災用水、渇水時の備えなど、さまざまな観点から雨水の活用を呼びかけている」と力説する。意識しているのは、コンクリートに覆われ水が浸透しにくい都市部における「ミニダム化」だ。
雨水の行く先は
東京スカイツリータウン広報事務局の網博行さんに案内され、スカイツリー併設のオフィスビル屋上へ上ると、ヘリポート脇に突起の付いた取水口があった。こうした取水口がいくつも設置され、敷地内に降る雨水を地下空間に流し込んでいる。
地下駐車場の一部の天井には水を送るパイプが張り巡らされ、太いものだと両腕で抱え込むくらいある。それらを伝った雨水は最大2635トンまでためられる地下貯水槽へと送られる。地下に埋められたタンクの数は60個で、形や大きさはまちまちだ。「未利用で、使える空間を使っているのでサイズは一定にはならないんですよ」と網さん。そのうちの一つを開けてみてもらうと、数日間晴れの日が続いたことで、水位は低めだが、縦横7・2メートルの直方体に数十センチの雨水がたまっていた。
散水にも利用
貯水量のうち抑制槽が1835トン、貯留槽が800トン。抑制槽は集中豪雨などによる洪水を防ぐためのものだが、貯留槽は植栽への散水に再利用している。貯留槽の雨水は濾過装置を通過し、塩素による殺菌を経て、ポンプで敷地内の広場など各エリアに送られている。
広場に植えられている、青々と育った木々の根元を改めて見ると黒い散水用のチューブが伸びていた。小さな穴から定期的に散水され、省力化にもつながっているという。網さんは「墨田区は雨水利用で有名なところ。環境配慮という面でも有効です」と胸を張った。スカイツリーは高さだけでなく、地下空間も抜群だった。(山本玲)