さて、今回はえちごトキめき鉄道(トキ鉄)の看板列車「雪月花(注)」に乗車した翌日の話から始めたい。
旅の余韻に浸っていたころ、一通のメールがトキ鉄からやってきた。またJR北海道からのようなクレームか、と身構えたが、そうではなかった。
「雪月花」の車内で買った記念グッズ(ポストカードセットやコーヒーなど比較的安価な品々)を大きな紙袋にまとめて渡してもらったのだが、「2セットご購入いただいたポストカードセットのうち1セット不足していませんか」という問い合わせだった。調べてみると、確かに1セット足りない。「いつでも構いません。『雪月花』のサービスの良さを紹介させていただきます」と返信すると、お詫(わ)びとともに次のようなメールが返ってきた。
「雪月花をご紹介していただけるとのこと、誠にありがとうございます。今後もお客様にお楽しみいただけるよう、また、より良い列車になるよう乗務員一同努力して参ります」
どこかのJRとはえらい違いだ。もちろん、ポストカードはすぐ郵送してくれた。しかもクリアファイル付きだった。
「雪月花」は、アフターサービスも満点だった。
では、時計の針を「雪月花」出発前の6月某日午前10時前に戻そう。
北陸新幹線の上越妙高駅改札口でサンケイ1号君と落ち合う。乗車駅がバラバラなので号車をあわせるのが面倒なのと、朝の新幹線は寝るに限るからだ。一緒だと喋(しゃべ)りまくるのは必定で、他のお客さまの迷惑になる、との常識くらいはある。
心配していた天気は、第二列車で登場した南海和尚に頼んでおいたので雨は降らなかった。いかに1号君が雨男とはいえ、和尚の法力に敵(かな)わないのは実証済みだ。
「雪月花」では、新潟にちなんだ食材をふんだんに使用した昼食が提供されるだけでなく、ご当地の日本酒やワインも積み込まれているので、駅の売店で食料や酒を仕込む必要もない。
10時きっかりにトキ鉄の改札口で受け付けが始まった。
スマホの予約画面を見せると、指定された号車と席番が手書きで書かれた横長の硬券を手渡された。愛好家の嗜好(しこう)を知り尽くした粋な演出だ。
いよいよお待ちかねの「雪月花」が入線してきた。
鮮やかな朱色というか紅色というか(正式には「銀朱色」)真っ赤な車両が目に飛び込んできた。運転台の窓は大きく、ローレル賞など各種の賞を総なめにしただけのことはある。
10時35分、定刻通り「雪月花」は出発した。この続きは、明日のこころだぁ!
(乾正人)
(注)観光列車「雪月花」
正式名は「えちごトキめきリゾート雪月花」。平成28年に運行開始。1編成2両で定員45人。旧型車両の改造ではなく、建築家の川西康之氏が設計デザインを統括したET122形1000番台の新造車を投入した。基本的に上越妙高―糸魚川間を週末運行している。