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ロッキード事件と日航機事故 中間管理職のストレスとは 昭和57年「サンケイ抄」 プレイバック「昭和100年」

産経ニュース 2024年10月6日 8時50分

田中私邸を訪ねた帰りの車中で、桧山社長は五本の指を広げて「これだよ」と告げた。「大きいほう(五億円のこと)でしょうね」とたずねると「決まってるじゃないか」…。

▼ロッキード法廷で朗読された「大久保調書」には、どきっとするほどなまなましい真実感がある。凡百の芝居や小説ではなかなかこうした状況は生まれない。片手を広げるしぐさや、「これ」とか「大きいほう」というぼかした物の言い方になるのが現実だろう。

▼〝総理大臣の犯罪〟を裏付けた「大久保調書」は、同時に〝会社人間の悲哀〟を述懐してビジネス街をしんみりさせた。大商社の専務とはいいながら、ワンマン社長に、わかりきった事をごちゃごちゃ聞くな、と頭ごなしにやられて首をすくめる。

▼調書によると、五億円贈与が実現しなければ「海外支店に追われてウダツが上がらぬ羽目」になり、実現すればしたで「罪になることは明らか」。「これはえらいことになったという絶望に似た気持ち」で「ものすごい重荷というか、かったるさを感じた」。

▼社命と罪の意識の板ばさみになり、いやおうなく事件に巻き込まれたサラリーマン重役の現実が目に見えるようだ。〝事件〟にまでは至らなくても、似たような状況に置かれて絶望や不安や焦燥のストレスをためる人は多い。

▼日航機事故で話題の「心身症」はそんなストレスが原因で体に症状が現れたもの。「会社人間の中では中間管理職に多い」そうだ。普通の人間ならだれでもなりうるが、「悪い奴ほどよく眠る」といわれるような人には関係ない。

(昭和57年2月26日)

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