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性的描写 文学か「わいせつ」か 四畳半襖の下張事件 警視庁150年 60/150

産経ニュース 2024年8月8日 7時0分

警視庁は昭和47年、著名な文学者が交代で編集長を務める月刊雑誌『面白半分』7月号を摘発した。掲載された小説『四畳半襖(ふすま)の下張』が、刑法のわいせつ文書販売罪に当たると判断。当時の編集長、野坂昭如らが書類送検、起訴され、わいせつ性を巡って最高裁まで約8年間にわたって争われる事件となった。

同作は、家を買った男が部屋の襖の下張りに男女の性的描写が書かれた紙片を見つけ、その内容を紹介する形の作品だ。当時『面白半分』では、優れた戯文の伝統を若者に知ってもらおうと企画。同作が明治期以降の戯文の名作で読みやすい上、内容も読者の興味をひくと考え、掲載を決めたという。

野坂は雑誌上で「ぼくは、とにかくこのようなすぐれた戯文を、読みたい時に読めるだけの自由が欲しい」と主張。裁判には証人として井上ひさし、吉行淳之介、開高健ら多くの人気作家らが出廷し、傍聴希望者が殺到した。55年、最高裁は被告側の上告を棄却し、有罪判決を言い渡した。

判決では、文書のわいせつ性の判断基準として、性的描写の露骨さや全体に占める比重、これを緩和する芸術性などを検討し、社会通念に照らし合わせることが必要と提示。風俗環境が変化する中、より具体的な基準を示した一方、「社会通念」とは何かなどの議論も呼んだ。

「わいせつとは何ぞやの論議はまだ当分決着がつきそうもない」(同年11月28日付『サンケイ』夕刊)(橋本愛)

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