山梨県の長崎幸太郎知事は13日、県が推進する富士山登山鉄道構想に、反対する団体からの意見聞き取りを初めて行った。3つの団体が出席し、各団体とも直接知事と意見交換できたことは評価したものの、麓と5合目を結ぶ「富士スバルライン」に線路を敷き、次世代型路面電車(LRT)を走らせる同構想は「現実性がない」とし、反対の立場は変わらなかった。
富士山登山鉄道に反対する会の上文司厚代表(北口本宮冨士浅間神社宮司)は「これ以上の富士山の開発は思いとどまってほしい」と長崎氏に要請。同会は構想実現には大規模な車両基地や変電所新設などの大掛かりな工事を伴うことになり、環境破壊につながるとして反対する。
富士山の未来を考える市民の会の秋山真一共同代表は「通年運行を想定しているが、雪崩など冬の災害リスクを考えると厳しい」と構想の課題を指摘。富士山登山鉄道建設反対県民会議の飯島徳男代表は、実現可能とした県の中間報告は「机上の計算で富士山の軟弱な土壌では設備投資額1480億円では収まらない。工事自体が夢物語だ」と批判した。
このほかに、「世界的にまだ確立されていない技術を使ってLRTを進めようとしている。富士山を実験台にしないでほしい」、「緊急の課題といっているが、今できるのはLRTではなく電気自動車(EV)型バスだ」といった反対意見が出席者から相次いだ。
会合後、長崎氏は「建設的な意見交換となった。反対団体とも、多すぎる来訪者に対するコントロールが必要ということでは一致した。手段としての鉄道には反対されているが、環境負荷の低いものならいいということでの意見は一致した」と認識を共有できた点もあったと話す。そのうえで「今回の意見を取り入れて年内に同構想の今後の方向性を表明する」考えを示した。(平尾孝)
富士山登山鉄道構想
富士スバルライン上に軌道を敷設し、LRTを運行させると同時に一般車両の通行を禁止し、オーバーツーリズム(観光公害)が問題となる中で、LRTで来訪者コントロールを図る構想。雪に強い特性を生かし、年間を通じて運行させ、5合目の通年観光につなげる狙いもある。一方で鉄道敷設は富士山の自然破壊につながることや、崩れやすい土壌のうえ、雪崩や土砂崩れが頻発する中で、鉄道敷設自体が無理だとして反対の声があがっている。