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宇宙開発はマラソン、他国支援のとき 先頭集団にいられるのは国際協力のおかげ 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<26>

産経ニュース 2024年9月27日 10時0分

《文部科学省の国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会の主査を務めた。なぜか》

在米大使館で一緒だった文科省出身の村上尚久参事官が推薦したようだ。宇宙には関心はあったが、専門的知識はなかった。どうしようかと言っていたら、損害保険会社で衛星の保険を担当したことのある義弟が参考にと届けてくれたのが、漫画『宇宙兄弟』だった。小委員会のメンバーは宇宙飛行士や東大理学部教授など専門家が多く、専門用語が飛び交っていた。あるとき、「日本はバックローブに強いから」と言われた。わからないのでこっそり英語の辞書を引いたが出てこない。よく聞いていたら「暴露部」だった。

大きな方向性を考え、議事を進行することには慣れている。事務局の説明拝聴でなく活発な質疑応答が行われるように努めた。文科省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の事務局は大変だったと思うがよく協力してくれた。また必要と思ったときには報告書も自分で書いた。2018年に第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)を日本が主催した。そのとき、あわせて若い人の会合を主催しようと提案し、ヤングのYをつけたY―ISEFを行い、各国の青年たちのアイデア・コンテストを行った。広報には『宇宙兄弟』の作者、小山宙哉氏の協力を得た。

10年間務め、充実感があった。この春退任のとき、歴代の文科省の担当室長が集まってくれ、JAXAからも宇宙飛行士たちの署名入りの記念品を贈られたのはうれしかった。

《民間主導で宇宙開発を行う時代の到来か》

メディアがあおるのが心配だ。宇宙開発には巨額の予算がかかる。営利を度外視せざるを得ない。国際宇宙ステーション(ISS)のような地球に近い約400キロ上空の低軌道の衛星は、米国は今後は民間主導で進めると言っている。これは米国の場合、民間と言ってもNASA(米航空宇宙局)やNIH(米国立衛生研究所)の予算が入っている。また米国にはイーロン・マスク氏率いるスペースXのような民間企業があるが日本では胎動したばかり。米国が民間主導だからといって右にならえば鵜(う)のまねをする烏(からす)になる。

低軌道での宇宙ビジネスと言ってもさまざまだ。創薬は可能性がある。コミュニケーションは大きな期待が持てる。ツーリズムは価格が今の数十分の1になっても何千万円もかかる。数日間のきびしい旅行をしたいという人がどれだけいるか。

《日本はどう臨むのか》

国民全体が支援する国家プロジェクトと認識すべきだ。すぐ利益も成果も上がらず、失敗があってもやむを得ない。日本一国ではとても背負いきれない。米やEU(欧州連合)、ロシア、カナダと一緒にISSをやれたのは幸運だった。今度は米EUなどとアルテミス計画に参画し、日本人宇宙飛行士が月面着陸できる。この仲間に入っていることが大事だ。日本は資金的協力と同時に、小惑星への着陸やロケットによる運搬、月面探査車など独自の技術がある。これらを磨いて日本の参加が求められるようにしていかなければならない。

中国やインド、アラブ首長国連邦は国家の威信をかけて自国だけで進めている。日本は費用対効果の観点から国際協力の中で進めていくのが望ましい。宇宙開発は国家間のマラソンだ。途中で大幅に遅れたら盛り返すのは難しい。先頭集団にいられるのは国際協力のおかげだ。

《今後はどうする》

昨年JAXAが宇宙飛行士候補の養成を新たに決めたのは素晴らしい。ようやくと思った。同時に3人目に東南アジアなど友好国から1人入れるとよかったと思った。日本の宇宙飛行士はこれまでNASAで訓練を受けてきた。もう自らもそういう手を途上国に差し伸べる番だ。中国などが手を挙げてくる前に日本がアジアにおける宇宙先進国として宇宙飛行士育成の門戸を開くべき時期だと考える。(聞き手 内藤泰朗)

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