奈良で代々、漆を塗る塗師(ぬし)として社寺の神宝・仏具の製作に携わってきた樽井家の禧酔(きすい)さん(80)と宏幸さん(50)父子そろっての初の作品展「塗師屋樽井展」が、12~18日に奈良市の吉城園主棟で開かれる。宏幸さんは「作品というよりも『奈良の道具』を作ってきた。今回が社寺の調度に目を向けてもらうきっかけになれば」と、奈良漆器への思いを込める。
樽井家は江戸時代後期から塗師を家業とし、禧酔さんと宏幸さんは雑器を作るとともに薬師寺や興福寺、春日大社などで漆塗りの仕事に従事。宏幸さんは昨年から今年にかけて唐招提寺講堂須弥壇(しゅみだん)の修復にも携わった。
奈良漆器は、正倉院宝物などにみられる貝殻を使った螺鈿(らでん)細工などが特徴だ。千数百年前からの技を継承しており、宏幸さんは「自分は支える側の一工人という点だが、それがやがて線となる」と一点一点を丁寧に仕上げる。
今回の父子展は元春日大社権宮司で県立大客員教授の岡本彰夫さんのすすめもあって実現し、会場には2人で丹精した計約100点を出展する予定だ。弘法大師・空海が中国・唐で贈られた念珠を納めるための箱と伝わる高野山・金剛峯寺の重要文化財を模造して螺鈿を施した品や、奈良の道具らしい六角の鉢などが並ぶ。
宏幸さんは「新型コロナウイルス禍の間にこだわったものを作れた。それだけ漆には時間がいるということでもある。展示を通じて社寺の調度にデザイン性や耐久性に優れた品が残っていることを知っていただきたい」と話している。
同展は午前10時~午後5時。無料。