重要施設やデモ隊の警備など、首都の治安維持に欠かせない機動隊。警視庁には全国で最も多い10隊の機動隊があるが、実はそれぞれに「スポーツ小隊」と呼ばれる「部活動」が存在する。勤務時間外に有志が集まって肉体や精神を鍛え、団結力を養って任務に生かす-。数あるスポーツ小隊の中で最も長い歴史を持つ第3機動隊(東京都目黒区)のラグビー部を訪ねた。
任務の合間に
「ワン、ツー、スリー」
カメラを向ける記者の求めに応じ、照れ臭そうに掛け声を合わせる選手たち。冗談を飛ばしあうその姿は、屈強な肉体を除けば普通の若者にしか見えない。しかし、彼らは日々訓練と警備任務に明け暮れる傍ら、空いた時間で練習に取り組む3機ラグビー部の精鋭でもある。
3機によると、部員は監督、コーチ合わせて34人で選手の多くは20代半ばから後半という。プロや企業チームのように選手をスカウトすることはできない。警察学校を卒業し、警察署で勤務するなど、通常の採用で入った警察官が入部する。監督を務める宮下洋哉(ひろや)警部補(43)は「署にいるラグビー経験者に声をかけたり、今いる部員の母校の後輩を警察官になるよう誘ったりして部員を確保している」と話す。
固定のホームグラウンドはなく、東大和市など各地の空いているグラウンドを借りており、任務の都合もあって練習は週1、2回がやっと。そのため、宮下さんは「それぞれが自主的にするトレーニングが重要だ」と指摘する。
60年以上の歴史
スポーツ小隊は昭和37年、当時の警視庁幹部の「強靭(きょうじん)な肉体と不撓不屈(ふとうふくつ)の敢闘精神がまさに機動隊の任務に生かせる」という考えに基づき、機動隊の部活としてラグビーが選ばれて3機に誕生したのが始まりだとされる。35年には「60年安保闘争」が起きるなど、機動隊員らは暴徒化したデモ隊と対峙(たいじ)するなど激動の時代だった。
宮下さんは「フェアプレーやワンフォーオール・オールフォーワンの精神が、機動隊にも通じる」と解説する。ラグビー部に続いて、各隊に野球や近代五種、アメリカンフットボールなど、多種多様な部活が生まれて現在に至っている。レスリングや近代五種、フェンシングは五輪に出場する日本トップレベルの選手も輩出している。
機動隊の部活は勝利だけが全てではないのも特徴だ。隊内の活動である以上、そこで培った体力やチームワークを、部隊の活動に生かすことが常に求められる。宮下さんは、「任務や訓練に加え、練習もあるので、家族よりチームメートの方が一緒にいるくらい」と明かす。
ラグビー部は現在、関東ラグビー協会が主催する「トップイーストリーグ」の上から3番目に当たるCグループに所属し、企業や自衛隊のチームとしのぎを削る。
これまでの「社会人1部」から初めて昇格して臨んだ今季は2勝5敗で8チーム中6位の成績だった。宮下さんは「B、Aへとさらに昇格できるよう、練習を重ねていきたい」と意気込みを語った。(橋本昌宗)