《シルクの輸入通販を始めた。イメージキャラクターを誰にするか、模索する日々に》
友達にスポーツ新聞の記者さんがいたんです。その彼と鹿児島に旅行した帰り、羽田空港からのタクシーのなかで「うちのシルクのイメージキャラクター、誰かいい人はいないかな?」ってなってね。そうしたら「いるよ、いるよ。スターにしきのあきらさんはどう?」「いいねえ」って。で、「にしきのさんの事務所の関係者と仲良いから電話してみるよ」と、その場で電話してくれたんです。それでにしきのさんの事務所の関係者とお会いした。とてもいい方で、首尾よく出演が決まったんです。
もう僕の頭のなかは、シルクをまとった、かっこいいにしきのさんのCMやチラシ広告でいっぱいです。さらににしきのさんはその年、「24時間テレビ」のマラソンで完走して話題満載です。もう楽しみでしたね。で、にしきのさんの広告が出始め、しばらくするとこの関係者から電話があった。それが「石田さん、緊急事態です。にしきのが今後、出演できなくなりました」って。で、慌ててこの関係者に会ったんです。
《イメージキャラクターを変更することに》
この関係者は「申し訳ございません。事情があって、シルクの契約は解除してほしい」と、平身低頭です。分かりました、ってなるしかありませんよね。でも今後も広告のスケジュールは押さえている。で、聞いたんです。「誰か他にタレントさんはいませんか?」。すると「石田さんは誰か希望がありますか? 誰でも連れてきます」となった。で、僕は「では松方弘樹さんで」とお願いしたんです。
香港にいるときはドラマ「HOTEL」や遠山の金さん、ヤクザ映画などもよく見ていました。釣りが趣味の僕は、松方さんの釣り番組の大ファンでしたから。豪快だしね。幸いこの関係者は松方さんとは知り合いで、交渉してくれた。それで京都のお寿司(すし)屋さんで松方さんとお会いすることになったんです。
せっかくだからと、僕はお寿司屋さんにシルクのシャツを着て行ったんです。それが松方さんの第一声は「うわあ、ダッセえなあー」って。ほめなくてもいいけど、いきなりダサいはないだろう、というのが第一印象でした。続けて松方さんは、「石田さん、シルクのシャツはズボンにしまい込むとぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ。シルクはね、ズボンの外に出してシュッとさせるんですよ」と教えてくれたんです。
《広告のロケ地を相談する》
松方さんはイメージ通りの豪快な人でした。一番肝心なギャラも、僕が「金額はこれしか出せません」と言うと、「いいよ、いいよ、それで。その代わり、シルクが売れたら少しずつ上げていってね」と即決です。で、松方さんは「撮影はどこでやるんだい?」と聞いてきた。「えっ、東京か、京都でいいのでは」と僕が答えると、松方さんは「それは違うだろ、沖縄だろ」って言う。
「沖縄? ちょっと待って。沖縄に何をしに行くんです?」「それはやっぱり、松方弘樹は太平洋の大海原でクルーザーに乗ってマグロの一本釣りだろ」。確かに松方さんの広告は夏からのスタートです。松方さんは「半袖だろ。撮影は2月か3月だから沖縄だな」と。
それで沖縄でクルーザーをチャーターし、沖合に出たんです。で、いよいよ撮影が始まりました。それが波の高い日で、松方さんのシルクのシャツは波しぶきでビチャビチャに。着替えのシャツは持って行きませんでした。写真はもうそのシャツで撮るしかなかったんです。
それでもかっこいい新聞広告ができあがった。広告掲載の初日、オペレーターさんは全員出社です。朝の9時から電話を待っていました。それが思いもよらない結果になったのです。(聞き手 大野正利)