直江津に12時10分、到着した。嬉(うれ)しいことに駅弁の「立ち売り」をやっていた。
北陸新幹線が開通するまで直江津は、北陸本線と信越本線の結節点として大いににぎわった。「白鳥」「白山」「はくたか」といった時代を彩った特急列車が、ひっきりなしに発着し、駅弁も2社が競合していた。今はホテルハイマートさんのみになったが、「雪月花」が発着するこの時間帯だけ「立ち売り」を復活させたという。おなかはパンパンなのだが、御当地名物「鱈(たら)めし」を買うのは、愛好家の義務と言っても過言ではない。もちろん、サンケイ1号君の夕食用に寄贈した。
直江津を出発すると、「雪月花」はスピードを上げ、海沿いを驀進(ばくしん)する。
グズグズしてはいられない。フリースペースになっている1号車の展望スペースに移動して、運転台越しの日本海を堪能する。と、ほどなく全長約11・3キロの頸城トンネルに突入した。窓の外は漆黒の闇となり、夜行列車に乗っているかのような錯覚を覚えた。
このトンネル内にある筒石駅が後半の白眉だ。
もともと筒石駅は、海岸沿いにあったが、地滑りで不通になったことがあったためトンネルを掘って新線を通すことになり、昭和44年、地元の熱意でトンネル内に駅ができたという。
ホームから改札までは、300段近い階段があり(エレベーターはない)、つい5年前までは駅員さんが常駐し、列車がくるたびに地上の改札口とホームを上り下りしていたという。
駅に降り立つとひんやり肌寒い。ガイドしてくれた乗務員さんによると、夏は霧が出て冬はさほど寒くないんだとか。停車時間は7分だったので、地上まで駆け上がれなかったのが残念だ(たとえ30分あったとしても地上に出なかっただろうが)。
今も高校生を中心に1日十数人の乗客があるというが、この駅を利用している生徒さんの足腰は、五輪選手並みに鍛えられていることだろう。
車内に戻ると、5年前に来日したローマ法王に供された「法王のティラミス」と、香り高いコーヒーがテーブルに用意されていた。
13時14分、あっという間に終着糸魚川に着いた。あと2時間はこのまま乗っていたいところだが、致し方ない。
「雪月花」はつい最近、JR東日本の協力を得て、復旧した只見線に乗り入れて話題を呼んだ。気動車なので、線路さえしっかりしていれば、どこへでも乗り入れられる強みを生かした。料金は1人8万円だったが、たちまち満員御礼になったという(本当はこちらに乗りたかったのだが、予算の関係で断念したのは言うまでもない)。
「復興支援のため、もう少し落ち着いたら能登の和倉温泉に乗り入れてほしいですね」
1号君もたまにはいいことを言う。少子高齢化が進み、乗客の増加が見込めない中、鉄道会社の垣根を越えた連携がますます必要かつ重要になってくる。
明日は、えちごトキめき鉄道が復活させた「急行」電車に乗って大団円を迎えるのこころだぁ!
(乾正人)