北海道の鈴木直道知事は24日、産経新聞のインタビュー取材に応じ、ロシア軍によるウクライナ侵略の影響で見送りが続く北方四島交流事業について「いまだ解決していない。元島民の高齢化も進んでおり、政府には毅然(きぜん)とした対応をお願いしたい」などと強く訴えた。また、再生可能エネルギー事業における地域共生の課題や次世代半導体製造に向けて「しっかり対応したい」などと展望した。インタビューの一問一答は次の通り。
交渉後押しする力を
――北方四島交流事業について、現状分析と今後の展望を
「元島民が高齢化し、首相や外務大臣、担当大臣などには『一刻の猶予も許されない』と話してきた。来年は戦後80年を迎えるが、北方領土問題はいまだ解決していない。このことを多くの国民に認識してもらい、交渉を後押しする力を貸してほしい。若い世代ほど、そして北海道から離れるほどこの問題への関心が低いという課題もあるのでしっかり対応していく」
「(北方墓参に代わる)洋上慰霊は今年、沖縄・北方担当大臣と外務大臣政務官が初めて同席した。元島民からは『外交努力はしていると思うが、その内容が分からない』という意見や、『(来年は年齢的に)参加できるか分からない。残された時間は少ない』などの声があった。外交交渉は政府の専権事項だが、北方領土を行政区として所管する北海道としては、元島民の思いをしっかり受け止めて前進する交渉をしてほしい」
環境と経済の好循環目指し対応
――北海道では再生可能エネルギー事業が急速に拡大している
「国内外から投資を呼び込むGX(グリーントランスフォーメーション)分野について、自然景観などへの懸念をどうするかを道議会でも議論した。国もそうした懸念から『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』(再エネ特措法)で事業者に対して説明義務を課しており、しっかり実行していく必要がある。エネルギー基本計画では火力から再生可能エネルギーの割合をさらに増やすとしており、GXビジョンでも再生可能エネルギーがあるところへの産業の立地促進を話し合っている。(再エネのポテンシャルが豊富な)北海道への企業進出や投資の可能性があるわけだが、環境と経済は好循環していかないと、なかなか成り立たないのでしっかり対応していく」
半導体分野で人材育成を
――次世代半導体を製造する「ラピダス」の工場建設も順調に進んでいる
「かつて日本は半導体分野で世界の中心的役割を担ってきたが、状況は変わった。経済安全保障上も重要なキーテクノロジーである次世代半導体を国内で調達するこのプロジェクトは極めて重要で、不安定な世界情勢の中、その必要性はより増している。北海道で進む国家プロジェクトをしっかり成功させなければいけない。国とも連携して役割を果たしていきたい」
「誘致から1年10カ月がたち、来年春のパイロットライン(試作ライン)稼働まであと数カ月。パイロットラインといえども〝メード・イン・北海道〟の2ナノメートル(ナノは10億分の1)半導体が製造されることになる。まずはここを成功させる。2027年から量産するということだが、大事なのは欧米と連携した取り組みが北海道で行われるということ。製造のみならず研究と人材育成の複合拠点を北海道に立地することが重要。次世代半導体は他県でもいろいろな取り組みが進む。国内ネットワークを組み、国への要望などをしっかりやっていきたい」
「世界で人材獲得競争が進む半導体産業は裾野が広いのでさまざまな人材が求められる。トップ研究者のネットワーク『最先端半導体技術センター』に参加している北海道大をはじめ、国内最多の工業高等専門学校を有するなど、北海道は人材育成の可能性が高い。今後は海外からもどんどん技術者が来て千歳市でずっと開発することになる。学生にとっては欧米に行かずとも千歳で技術者に会えることになるわけで、そこを生かすべきだと考えている」(聞き手 坂本隆浩)