「ラーメン屋としてではなく、まずは料理人として一人前になるように」
夜間のアルバイト先として大学生でラーメン業界に飛び込み、その奥深さにほれ込んだ。駆け出しだったころ、師匠から伝えられた言葉を今も忘れない。
勝田圭さんが営むラーメン店「哲勝」は、大阪市北区の「天五中崎通商店街」の中に位置する。JR天満駅を中心に、界隈(かいわい)は大阪屈指のラーメン激戦区として知られ、全国のラーメンファンが名店に集う。生き残りはとても厳しい。
哲勝のラーメンは、鶏や豚でダシを取ったあっさり系のスープに、自家製のモチモチ系の麺を絡めるのが特徴で、基本メニューは塩かしょうゆとシンプル。席数はカウンターにわずか7席だが、製麺機を備え、客の好みに合わせて切ることもできる。
独立、開業したのは1年ほど前。店の名は急速に浸透し、客の中には趣味と学びを兼ねて毎週のように足を運ぶ同業者の姿も。ファンを増やす理由の一つに裏メニューの存在があった。
「近くの天満市場で新鮮な魚介類を仕入れて、ダシを取る。季節に応じた食材を使うため、裏メニューは基本的に『おまかせ』になるが、言ってもらえれば初めてのお客さんにも出しますよ」と軽快に語る。
勝田さんは独立前まで、大阪府豊中市に本店を置くラーメン店「麺哲」グループで勤務。ビールや日本酒のさかなに刺し身やすしを出すという独特のスタイルで、厨房(ちゅうぼう)ではラーメン作りよりも先に魚をさばくところから学んだという。
「そうした『料理人』としての経験が自らの引き出しに蓄積され、裏メニューの考案に生かされている」という。車エビやハモ、ヒラメ、アゴといった魚介系のほか、パルメザンチーズをふんだんに使った「釜玉チーズ」など、高い独創性を裏メニューで表現する。
哲勝ファンの一人で、自らも業界に籍を置く、ラーメンマニアのまるしんさん(61)は「『甲殻類縛り』といった乱暴な要求にも応えてくれる。教えを請う気持ちで勝田さんの独創性を楽しませてもらっている」と話す。
また哲勝では、店の近くにある天満市場で仕入れた新鮮な魚介を刺し身にしたり揚げ物にしたりして、酒のさかなとしても提供している。「ラーメン屋の可能性を探る。『飲み』のあり方も変えていきたい」(勝田さん)と意欲的だ。
今回の取材では、炙ったタイとアジの刺し身に加えて、透き通った鮮魚ダシのスープの上にチャーシューとタイの炙りが並んだラーメンを提供してもらった。そのうまさに感激して、支払いは2千円を超えるだろうと思ったが、1500円と良心的だった。
料理人として培った技と獲得しつつある客からの信頼をベースに、激戦区での生き残りを模索している。(岡嶋大城)
かつた・けい 昭和61年4月生まれ。兵庫県川西市出身。神戸学院大在学中に大阪府豊中市に本店を置く「麺哲」グループの2号店「麺野郎」(同府池田市)でアルバイトとして勤務。大学卒業後、フリーターを経て同グループの正社員となり、料理人としての研鑽(けんさん)を積む。令和5年10月に独立し大阪市北区のラーメン激戦区・天満で「哲勝」を開業。ラーメン屋の新たな可能性を探っている。