大阪のシンボルとされる展望塔「通天閣」(大阪市浪速区)を保有・運営する通天閣観光が、大手私鉄の南海電気鉄道(同区)などに対し、会社の身売りを検討していることが11月上旬に明らかとなった。歴史的な背景から、おひざ元の歓楽街・新世界との関わりが深く、会社の株主には今も地域住民らが名を連ねる。身売りの検討内容の詳細はいまだ明らかになっていないだけに、地元では不安も渦巻いている。
「突然のことでビックリしている。複雑な気持ちでいっぱいだ」
通天閣の身売り検討について、新世界町会連合会の近藤正孝会長はこう話す。
新世界には串カツ店などの飲食店が立ち並び、通天閣は町並みの中心にそびえる。JR大阪環状線新今宮駅、大阪メトロ御堂筋線動物園前駅、同堺筋線恵美須町駅からそれぞれ徒歩約10分の距離にあり、2代目となる現在の展望塔は、地元の出資などで昭和31年に建設された。
運営会社の株主には今も地域の住民らが名を連ねており、別の新世界関係者は「本当に寝耳に水。今後の体制がどうなるのか。通天閣観光の話を聞きたい」と不安を口にする。
同社によると、インバウンド(訪日客)消費などが追い風となり、通天閣の年間入場者数は平成19年度から13年連続で100万人を突破。新型コロナウイルス禍で令和2、3年度は低迷したが、5年度の入場者数はコロナ禍前を大きく上回る約137万人に達した。
入場者数の増加を背景に同社は近年、設備投資にも積極的だった。4年5月には、3階の地上22メートルから地下1階までを約10秒で滑り降りる「タワースライダー」を、今年7月には、高さ約40メートル地点の飛び込み台から約14メートル下の中間展望台の屋上へ垂直に飛び降りる体験型アトラクションをそれぞれオープンさせた。
通天閣観光側は、身売り話の詳細を明らかにしておらず、方向性については不透明な点が多い。
ただ身売りの検討が明らかになる直前、産経新聞の取材に対し、高井隆光社長は、展望台へ通じるエレベーターの輸送能力からして「年間約137万人の入場者が限界ギリギリだと思う」と発言。将来的に新たなチャレンジへと踏み出す可能性について含みを持たせていた。(格清政典)
■通天閣 通称・新世界の歓楽街にある高さ108メートルの展望塔で「天に通じる高い建物」という意味をもつ。明治45(1912)年にパリのエッフェル塔をモデルに建てられた。昭和18年に映画館の火災がもとで解体。戦後、「通天閣を再建して新世界を復興させよう」という機運が地元で高まり、30年に住民らの出資で「通天閣観光」が設立され、翌31年に今の2代目通天閣が完成した。平成19年には国の登録有形文化財となった。