大阪・千日前の老舗レジャービル「味園ビル」(大阪市中央区)の2階に入居する飲食店など、約40のテナントが年内いっぱいで撤退する。「日本最大のクラブ」とうたわれた大型キャバレーが入居するなど、昭和から平成にかけて大人の社交場として栄え、ミナミの発展を支えた。地下のライブホール「味園ユニバース」など一部は年明け後も営業するとみられるが、昭和レトロが色濃く残るビルも来年で築70年。残された時間はそう長くはなさそうだ。
味園ビルは、昭和30年に千日前にオープンした地上5階、地下1階の総合レジャービル。地下1階のダンスホールでは、デビュー前の和田アキ子が専属歌手としてステージに立ち、ブレーク直後のピンク・レディーが登場するなど、数多くの伝説が残る。
500人を収容する畳敷きの大宴会場のほか、異次元の空間を演出する大型キャバレー「ユニバース」。昭和テイストの内装や華麗なショーに客は酔いしれ、われを忘れた。
宴会、2次会、宿泊という一連の夜の流れがビル内で完結するというのが、味園ビルの売りだったが、時代を下るにつれ、その趣は変化する。キャバレーやサウナは廃業。数年前からは宴会場やホテルも営業を取りやめている。
そんな退潮ムードにあらがうかのように、大阪のアングラ文化を発信し続けたライブシアター「なんば白鯨(はくげい)」は、約15年前から現在に至るまでビル2階で営業を続ける。テナントには今年5月、年末で賃貸借契約を終了するという旨の連絡が管理会社から届いた。
オーナーのB・カシワギさん(45)は「自由な発想で、居場所のない人が集まることができる空間を目指した。老朽化が激しく空調が効かないなどの弊害もあったが、それも持ち味だった」と老舗ビルへの思いを語る。今月は「さらば味園」の冠をつけたイベントを相次いで開催。賃貸借契約が切れる12月31日まで店を開け、来年2月からは大阪市浪速区日本橋西の別ビルで店を再開させるという。
同じ2階フロアで深夜喫茶「銭ゲバ」を営むムヤニーさん(51)は20年ほど前、勤めていた会社の副業で店を始めた。敷金、礼金、保証金はいずれもゼロで家賃は破格。周囲は空き店舗が目立ったが、資金力が乏しかったムヤニーさんには好物件だった。
難波から日本橋にかけての千日前に広がる飲食店街が「ウラなんば」と呼ばれるようになると、味園ビルのディープさを味わいたいという若者らでにぎわうように。
「いつつぶれるかわからない状態で入居した。よくここまで長持ちした」。ムヤニーさんは感慨深げにそう話し、12月31日は年越し営業を実施するつもりだと明かした。(格清政典)