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和牛赤身肉に新ブランド誕生 秋田県立大の日本短角牛「がたべこ」 資源循環型畜産PR

産経ニュース 2025年1月18日 12時0分

南部牛が先祖の北東北特産「日本短角牛」に新ブランド「がたべこ」が誕生した。秋田県立大が研究用の飼育牛を7年がかりで肉質改良したもので、短角牛の特徴である赤身にうま味と柔らかさを加味。霜降り肉全盛の国内でも「欧米のように肉自体のさっぱりしたうま味を楽しみたい」という需要が増えつつあり、同大は資源循環型飼育法とともに新ブランド肉をPRしていく。

和牛4種の一つ

「脂がほとんどないのにやわらかくてうま味が強く、おいしいのに驚いた」

昨年12月、秋田市のイタリアンレストランでの試食会で、がたべこのローストやグリル、煮込み料理を味わった同大卒業生の女性(24)はこう言って満足そうな笑顔を見せた。

シェフの赤平吉(はじめ)さん(35)は「がたべこは同じ短角牛で秋田の『かづの牛』にも劣らないくらいうま味が強い。かむと心地よい肉の繊維感があり、肉汁がすっきりしていて老若男女を問わず好まれる」と話す。

日本短角牛は黒毛、褐毛(あかげ)、無角(むかく)と並び4種類ある和牛の一つ。岩手県など原産の南部牛に明治以降、米国産肉牛を交配して最終的に昭和32年に品種登録された。霜降り状の脂肪がほとんどない赤身肉が特徴。北東北や北海道を中心に7千頭ほど飼育され、「いわて短角牛」「かづの牛」などがブランド化されている。

「がたべこ」の名称は、飼育する同大アグリイノベーション教育研究センターがある大潟村の「潟」と、東北地方で牛を意味する「べこ」を組み合わせた。

柔らかで濃い食味

ブランド化に協力してきた食肉卸販売「大門商店」の大門宏幸社長(61)は「霜降り和牛は世界で人気になっているが、もともと欧米では脂肪のこってりさより肉自体の味わいを重視する傾向が強い」と指摘する。

ただ「かつて県立大の短角牛は研究用で肉質は重視されておらず、当社で扱っても加工用にしかならなかった」と打ち明ける。

7年前、飼育研究を担当する同研究センターに県畜産試験場から渡辺潤准教授が赴任すると、大門社長らの助言も受けながら肉質改善に取り組んだ。

同研究センターは、無雪期は主に放牧で、積雪期は農場栽培の牧草を食べさせ、ふんは堆肥として活用する循環型畜産をすでに確立していた。

渡辺准教授は「出荷前6カ月を仕上(肥育)げ期間として放牧をやめ、穀類を与えて肉の量と質を整えるようにした」と説明する。

穀類は3種。県内でソバから転作されたトウモロコシ、秋田銘菓「もろこし」の原料粉を取った後のアズキかす、そしてソバ粉をひいた後の製粉かす。穀類飼料はこうした二次利用の循環型にすることで、国産でも採算が合うようにした。

「仕上げ期間の導入により生後30カ月で体重750キロと一般的な和牛と同じ成長度を達成し、かつレベルの高い肉質を確保できた」と渡辺准教授。

大門社長は「かつてはパサパサで硬かった肉質が、しっとりして柔らかく、香りや味わいの濃い食味になった」と歓迎する。健康志向の強まりから国内でも近年は霜降りを敬遠して、肉本来のうま味を楽しめるヘルシーな赤身がほしいという声が増えているとし、「がたべこは放牧で食べる草の香りが肉のうま味につながっており、こうした需要に十分応えられる」と話す。

一部が秋田市などで販売され、価格は一般的な国産牛並みという。

国産飼料でペイ

同センターの牛舎は令和4年1月に漏電から全焼し、牛30頭が焼け死ぬ悲劇に見舞われたが、牛舎は再建され、がたべこも36頭まで増やせた。

渡辺准教授は「仕上げを終えた2頭を春までに出荷し、さらに年内に5~6頭出荷できる。来年以降は月1頭の出荷ペースにしたい」と意欲を見せる。

同大の福田裕穂学長は「輸入飼料が高騰しても国産飼料でペイ(採算をとることが)できる循環型畜産で、しかも肉質がよくヘルシーな和牛ブランドを確立できた。この持続可能な畜産を全国に広めたい」と話している。(八並朋昌)

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