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紙とはさみで作る驚きの笑顔 アーティスト「切り文字じょじょすけ」山中慎介さん まちかど人間録

産経ニュース 2024年7月22日 11時15分

「みなさん、あっと驚きますよ」

そう言うと、小さなはさみで黒い紙を切り始めた。細かく動かす中、みるみる現れたのは「あ」の一字。その手元を見つめていた人たちはあっと声をあげた。

「切り文字じょじょすけ」の名で活動する切り文字作家、山中慎介さん(58)=大阪府熊取町。紙から字を切り抜く「切り文字」は、下書きがない状態から始め、隙間や穴があってもひとつなぎ。切り抜かれた紙の方にも、残った方にも文字が浮かぶ。歌手、八神純子さんのヒット曲「みずいろの雨」の歌詞を切り抜き、最高240文字をつないだ記録を持つ。

コツは「書き順を意識してしまうが、その文字をその形で見ること」。文字を1つの絵として捉えるからこそできる技だが、長い間、特技とは思ってこなかった。「紙とはさみは、どこの家庭にもあるから、誰でもできると思っていた」と打ち明ける。

そこに40代にして転機が訪れた。友人宅で特技について話題が及び、切り文字をやってみせた。「もっと人前でやった方がいいよ」と絶賛の声を受け、一歩踏み出す。「人前で見せる芸にしていくには、どうしたらいいだろう」

平成27年、名古屋市内でのイベントに誘われた。その場で聞き取った名前の文字を切り抜き、約20組の客にパフォーマンスを楽しんでもらった。各地でイベント参加を重ねながら、翌年から、京都府福知山市の商店街のイベントに定期的に出るようになる。

すると、課題点が見えてきた。「黙々と切っていてはお客さんも待っている間に飽きてしまう。楽しませることも必要だ」と、その合間を埋める話芸にも磨きをかけていく。「作品だけでなく、私に会いたいと言って来てくれる」というファンも現れ始めた。

活動が知られるようになった30年、熊取町の「くまとり観光大使」に任命され、令和元年には、パリで開かれた「Japan Expo」に出展した。

そこでは書道家や舞踊家、着物アーティストと様々な作家と知り合い、「パフォーマンスに取り組む熱意を感じた。そんな人たちから切り文字を面白いと評価してもらえた」と大いに刺激を受ける。

やる気に火が付いた矢先に、新型コロナウイルス禍が襲う。だが、ライブ配信で披露するパフォーマンスでも喜んでもらえ、「トークにも自信がついた」と手応えを得た。

今では体験教室の開催、ステージで実演披露、昨年は初めての個展を開き、活動の幅を広げる。

「驚く笑顔を見ることが僕の喜び。こういう技があるんだと知ってほしい。会いに来て、切り文字を自分の手に取ってほしい」。驚きの笑顔はもっともっと広がっていく。(藤谷茂樹)

やまなか・しんすけ 昭和41年4月、堺市西区生まれ。京都コンピュータ学院卒業後、システムエンジニアとして会社に勤務。週末に切り文字作家として活動する。作家名「じょじょすけ」は、人生のバイブルとして愛読する荒木飛呂彦さんの人気マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」にちなんだ。

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