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「しみ」「たるみ」に効くタマネギ化粧品を開発・販売 元「クイーン淡路」の地元愛 一聞百見

産経ニュース 2024年10月4日 14時0分

「国生みの島」として知られる兵庫県・淡路島。近年、観光地として国内外から注目を集めるこの地で、特産品のタマネギを原料に使った化粧品が誕生した。手がけるのは、島生まれの化粧品開発販売会社「ティヨル」社長、斎藤千明さん(26)=兵庫県南あわじ市。島の観光大使を務めた経歴の持ち主で「故郷に力を」との一心から昨春に起業し、これまでに美容液や美容クリームなどを世に送り出してきた。使うタマネギは市場に出回らない規格外品と、世界的に注目が集まる食品ロス問題の解決にも一役買う。起業して約1年半。成果を感じつつ、「淡路島の基幹産業である第1次産業を、もっと盛り上げていきたい」と力を込める。

実家は3代続くタマネギ農家。その一人娘として生まれた。故郷は淡路島の中でも、一番のタマネギ生産地といえる地域。中学ではバレーボール、高校ではソフトボールに励み、大学進学後は大阪へ出ることに。専攻は経営学だった。

「小中高と同じような学問をしていたので、少し違うものをしたいと思った」

当時の気持ちは軽いものだったのかもしれない。だが、その思いが「今の道」を開いていく。

卒論のテーマは故郷・淡路島のマーケティングとブランディング。「将来は、故郷・淡路島に関わる仕事がしたいと思っていた。郷土愛-『地元愛』が強いのだと思う」と分析する。

淡路島でも全国同様、若者の都市流出が長年の課題となっている。島内の高校を卒業後、進学や就職などで島外へ出て、そのまま帰ってこない。近年は島内も開発が進むなどし、観光地としての注目度は飛躍的に高まったが、それでも、若者が出ていく状況に大きな変化はない。

厳しい現実の中で思いを力説する。「雇用をはじめ、若者が淡路島に『帰ってきたくなる場所』を作ることが大切」。卒論でも指摘した部分だった。

大学卒業後は、大阪市内のインフラ企業で秘書として働き始める。社会人生活を続ける中、令和4年春には故郷とのつながりをさらに深める好機と出会う。島の観光大使「クイーン淡路」への就任だった。

昭和56年に始まり、自身で42代目という歴史を重ねていた。「故郷を盛り上げたい」との思いからだった。令和4年春に着任し、島特産のタマネギのPRをはじめ、イベントの司会や地元ケーブルテレビでのニュースキャスターなど多忙な日々を送る。

そうした中で訪れた転機は、急なものだった。「クイーン」の仕事を始めた年の夏、父が病気で急逝した。64歳だった。「大学のときから『淡路島に帰ってきて、島で勤めて斎藤の家を継いでくれ。農業を継いでくれ』といわれていた」。突き付けられた現実に、頭が真っ白になったという。

心の中では「自分が家を守らなければ」という思いはあった。しかし、農業はまったくの未経験。「どうすれば…」と悩む中、見いだしたのが、タマネギの美容への活用だった。

「敏感肌で合わない化粧品を使うと、途端に荒れてしまう。そうすると仕事や勉強のモチベーションが大きく下がる。自分自身、成分の違いを詳しく調べることで、化粧品というものの奥深さを知った」。大学や秘書時代を通じて得た知識と経験で、「美」に対する意識は高まっていた。

そうして論文や文献などを調べ続ける中で、「タマネギの成分が美容に効果がある」という答えにたどり着く。「『これだ』と思った」。将来への道が、開かれた瞬間だった。

淡路島からオニオンコスメを ウィンウィンの商品づくり

「将来は淡路島のために」という思いは、父の急逝という出来事から一気に形になっていく。会社を退職して起業し、「NIONE(ニオーネ)」のブランド名でタマネギを原料に使った化粧品の開発、販売に成功する。名刺に記される肩書は「タマネギ美容家Ⓡ」。利用者からも好評と手応えを感じつつ、「故郷の魅力と、『オニオンビューティ』の名を広めていきたい」と語る。

昨年4月、仏語で「菩提樹(ぼだいじゅ)」を意味する化粧品開発販売会社「ティヨル」を立ち上げた。タマネギと美容をつなぐ鍵は、「たるみ」や「しみ」など肌に老化をもたらす大きな要因の一つ、酸化に効果がある成分「ケルセチン」だった。国内でもかつて化粧品に使われた事例があったといい、「もう一度、タマネギの抗酸化作用に注目した商品を」と開発に乗り出した。

原料として使うのは、タマネギから同社独自の方法で抽出したケルセチンを多く含む「オニオン水」。併せて、このケルセチンを多く含有する「ケル玉」という品種を選んで採用した。心がけたのは、形が悪かったり傷がついたりして市場に出回らない規格外品のタマネギを使うことだ。

「こうした型崩れや小さ過ぎるなどの理由のほか、タマネギの茶色い外皮を含めると、南あわじ市内だけで年間約2千トンのロスが出る」と斎藤さん。「商品を購入してくださるお客さまや、農家の方々を含む全体が『ウィンウィン』になれるような商品づくりを目指した」と、近江商人の経営哲学「三方よし」を挙げながら説明する。

令和5年11月以降、これまでに洗顔料や美容液など計3種類を販売。「レイヤークレンジング」は、メークだけでなく酸化した皮脂も取り除き、保湿もできる。美容液「ブリリアントセラム」は紫外線でダメージを受けた肌の修復に、美容クリーム「ブライトニングクリーム」は肌の張りやしわの改善にそれぞれ効果があるという。

購入した人たちからは、「1日使うだけで効果が実感できた」「肌に張りが出て首のしわが改善された」といった声が上がるなど反応は上々。現在、島内のホテルだけでなく、東京や名古屋の百貨店などでも取り扱うほか、地元・南あわじ市で、ふるさと納税返礼品として採用されている。

ブランド名の「NIONE」はタマネギの英語表記、「onion」と唯一無二を表す「one and only」から考案。「タマネギの美容効果は、まだまだ知られていない。唯一無二のオニオンコスメを、この島から広めていきたい」と力説する。

確かな成果を挙げる中でも、大切にしているのは「天狗(てんぐ)になるな」という亡き父の言葉だという。

「決して怒ることのない人だった。うっすらと『いつか起業できれば』と考えていたが、父が亡くなったことが背中を押したのだと思う。今の姿を見守っていてほしい」

自身の核を成す郷土愛と将来像についてこう語る。「淡路島は自然豊かで、古事記や日本書紀にも登場する由緒正しい『国生みの島』。国を造るのは人であり、若者だと思う。これからを担う若い人たちが、この島で働き、頑張っていけるような環境を作り出していきたい」。語る言葉に、自然と力が入った。

さいとう・ちあき 平成10年、兵庫県三原町(現・南あわじ市)生まれ。大阪経済大経営学部卒業。大阪市内のインフラ企業で秘書として約2年半勤務。この間、淡路島の観光大使「クイーン淡路」を1年間務める。退社後、令和5年4月に化粧品開発販売会社「ティヨル」を立ち上げた。会社名の意味は仏語で「菩提樹(ぼだいじゅ)」。タマネギを原料とした化粧品づくりを手がけているが、将来は健康食品の開発も検討しているという。

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