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食後の野菜くずから「再生栽培」 驚きの生命力、価格高騰に対抗 近ごろ都に流行るもの

産経ニュース 2025年2月1日 13時0分

キャベツが高過ぎ、白菜も他も軒並み高い! 昨年の猛暑などを背景にした野菜高騰が続くなか、使用済み野菜の芯や皮やヘタから、次の野菜を育成収穫する「再生栽培」に注目したい。気温の低い冬場は水耕栽培に適しており、光の入るキッチンや窓辺で手軽に始められる。お金もかからず、これまで生ごみとして捨てていた一片の野菜の生命力に驚くばかりだ。再生栽培を発信する、イラストレーターで家庭菜園・料理愛好家の大橋明子さん(61)の都内自宅を訪問。ノウハウと魅力を聞いた。

「食べて、育てる」料理本に世界大賞

青々とした小松菜、セロリ、小ネギ、大根などがキッチンカウンターに並ぶ。コップや深めのお皿にキッチンネットを敷いて、水耕栽培をしているのだ。

「クレソンは買うと高いけど、水に漬けておけばすぐに根が出るほど繁殖力旺盛。脇芽を摘むように収穫します。わからなかったら適当に切ってもいいのよ。ちゃんと伸びてくるから」。ステーキに添えたり、サラダにしたい。

大橋さんが手作りしてくれたチョコレートムースに、レースのようなニンジンの葉をちょっと乗せた。かわいい! 「味に癖がないからどんな料理でも飾りに使える。香りの強いパクチーならインスタントラーメンがタイヌードル風に味わえますね。水耕栽培は小さな収穫から大きな楽しみが生まれる」と大橋さん。

さまざまなタッチを描き分け、書籍や雑誌の挿絵やイラストで20代から活躍してきた大橋さん。四半世紀前。離婚を経てメンタルが弱っていたころ、癒やしを求めて家庭菜園を始めた。ある日、堆肥作りのコンポストに入れた5ミリ角のジャガイモの芽が伸びているのに気づく。「いじらしい」。プランターに植えるとスクスクと葉が茂り、小さな芋がとれた経験が、再生栽培に取り組む原点だ。

「なんて野菜ってかわいいんだろう。再生栽培は、野菜の持つ生命エネルギーのすごさを身近に感じられ、その生命力を与えてもらえる。さらに無農薬で新鮮。節約ももちろん大きな要素ですが、お金に換えられない価値があります」

不調を野菜で改善する食養生にも取り組み、国際中医薬膳師の資格を取った。

著書「食べて、育てる しあわせ野菜レシピ」(集英社インターナショナル)は世界的な表彰、グルマン世界料理本大賞2017のベジタリアンとベストイラストレーションの2部門を受賞。昨年は「ズボラさんの買わない、捨てないちょこっとガーデニング&レシピ」(同)を出版した。5年前の新型コロナウイルス禍を機に、自身の知見をみんなに活用してほしいと、YouTube番組「食&植」を自宅のキッチンや庭から発信。キャベツの芯、山芋の皮、芽が出たニンニクなど、多様な野菜くずたちが次々と再生していく〝ど根性〟が見ものである。

具体的な栽培アドバイスも聞いた。初心者へのお薦めは通年栽培できる小松菜。買うときになるべく根が出ているものを選んで、食べた残りの芯を水耕栽培。2、3週間後から少しずつ収穫できる。種からよりも早く育つのが再生栽培の利点だ。発根したら土のプランターに植え付けることを推奨。「日光、雨、風という植物本来の環境に置いてあげることで、元気に育ちます」。今からなら植え時は3月。葉だけでなくその後、菜の花が食べられる。そして枯れたら種を取って、無限ループの完成だ。まいて発芽させればスプラウト(発芽野菜)も楽しめるという。

また、豆苗の再生栽培は有名だが、さらに土に植えれば5~6月に絹さや、もう少し待つとエンドウ豆が収穫でき、「野菜の一生」を味わえる。

「狭いベランダでもハンギングバスケットなどで垂直空間を生かせば大丈夫。肥料もお米の研ぎ汁なんかを利用して無駄なくね」

節分、春を迎えれば野菜価格も落ち着いてくれるかもしれない。それでも、命を見守る尊さ、あるものを生かしていただく、再生栽培の豊かさにハマりそうだ。(重松明子)

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