今年に入り、各地の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザの発生が急増している。1月は過去最悪となった令和4年度のシーズンを倍近く上回る34件が確認された。今季の発生(1日時点)は14道県51件で、殺処分対象は約934万羽に上っている。鳥インフルの発生は例年、春先まで続く。市場では鶏卵価格の高騰も招いており、警戒が高まっている。
農林水産省によると、食用の肉や卵に利用される鶏などへの感染は今季、過去最も早い昨年10月17日に北海道で確認。その後も千葉、新潟などで判明したが、早期に消毒などの措置を講じたことにより、「昨年末までは、比較的押さえ込むことができていた」(担当者)という。
農水省「異常事態」と危機感
だが年明け以降、状況は暗転。1月は、2日の愛知を皮切りに感染報告が続出し、19日には愛知、千葉で計7件もの発生を確認した。1月の比較では、34件(殺処分対象650万羽)となり、過去最悪だった令和4年度の19件(同463万羽)を大幅に上回った。
急増の要因は分かっていないが、今季は100羽以上が死亡するまで行政側に通報しなかった農場のケースなども報告され、周辺での感染拡大につながった可能性も指摘される。
国内では令和4年度に殺処分が過去最多の1771万羽に上った苦い過去がある。1月20日に開かれた都道府県担当者らとの緊急全国会議で、江藤拓農水相は「異常な事態」との認識を示し、全力で対応にあたるよう求めた。
感染抑止へ2月が正念場
北海道大の迫田義博教授(ウイルス学)によると、鳥インフルエンザウイルスは海外からの渡り鳥によって運ばれる。今季は国内に第1陣が飛来した同時期に、養鶏場内での感染が確認された。
感染して死亡した鶏の体内では、ウイルスの増殖が起きている状態で、迫田氏は「〝火の粉〟が周りに飛ぶことを防ぐためにも、異常察知後の迅速な通報は感染拡大防止には欠かせない」と語る。
予防に向けては、野鳥や野生動物の侵入防止、人やモノの移動に伴う拡散防止など「ウイルスを養鶏場内に持ち込ませない対策の徹底が重要」と説明。鳥インフルの流行は例年、渡り鳥が北に帰る3月頃になれば収束に向かうといい、迫田氏は「感染抑止に向けては2月が正念場になる」と話した。(三宅陽子)
鶏卵価格高騰、1キロ315円
鳥インフルの猛威は鶏卵価格へも影響を与えている。
JA全農たまごによると、卵1キログラム当たりの卸売価格(東京地区・Mサイズ基準値)は、昨年1月に180円だったが、同12月には290円に上昇。今年に入っても値を上げ、1月6日の225円から2月6日には315円まで高騰した。鳥インフル流行の影響を受け、350円まで上昇した令和4~5年に迫る勢いだ。
農水省は鶏卵供給量に一部不足感が出始めているとして、関係団体などに対し、需給の逼迫(ひっぱく)状況に応じて地域間で卵を融通し合うよう要請。鳥インフル発生に関する制限がかかっていない地域では、卵を採取する鶏の飼養期間を1~2カ月ほど延長して卵の生産を続けるよう求めた。
原料に卵を使用するメーカーなどには、凍結保存する液卵の在庫の活用なども呼びかけている。
海外の人感染、多くは飼育中接触
海外では人への感染報告もある。世界保健機関(WHO)に報告された鳥インフルの「H5N1型」への感染事例は、2003年~24年12月12日時点で、インドネシアやベトナムなど東南アジアを中心に計954人(うち死亡例は464人)。20年以降だけでみると計93人(同9人)が報告されているが、多くが感染が疑われる飼育中の鶏などとの接触があった。
米国では昨年、飼育牛からとみられる酪農場関係者らへの感染も明らかになった。日本ではこれまで人への感染の報告はない。
一方、国の食品安全委員会によると、ウイルスは適切な加熱調理(食品全体が70度以上に到達)や体内の胃酸で死滅するとし、鶏肉や鶏卵を食べて鳥インフルに感染したとの国内報告はなく「安全」だという。
また、食品安全委員会などによると、国内では食品の安全性に向け、さまざまな措置が講じられている。鳥インフルが発生した場合は、関連農場の鶏の殺処分など防疫措置を執行。
また、国産の鶏卵は通常、卵選別包装施設で次亜塩素酸ナトリウムなどを含む洗浄水で洗浄・消毒。国産の鶏肉も処理場で生体検査が実施されており、病気の疑いがあるものは食用にされないという。