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新しい女子教育を目指して「ジエシカ改革」 考えて自立する女性を 新たに国際コースも 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<24>

産経ニュース 2024年9月25日 10時0分

《駐米大使の後、大学教授や企業役員を経験。その後、北鎌倉女子学園の理事長に》

前の理事長だった斎藤邦彦元駐米大使から後任に推薦され、2017年春に就任した。JR横須賀線の北鎌倉駅から徒歩7分。創立約80年の500人くらいの小さい私立中学高校だ。丘の上で緑に囲まれた環境で、教員と生徒の距離も近い。音楽コースもある。男子校育ちの目から見ると珠玉のような学園だ。ただ昭和的過ぎた。教育目標は「高雅な品性を涵養(かんよう)する」というもので、まさに良妻賢母の育成。制服も暗い色だし、校則は厳し過ぎる。時代の要請に合っていないと思った。

改革を決意した。そこで改革に成功した学校を回って話を聞いた。生徒のアンケートも逐一読んだ。はじめの年の夏に2日間、こもって改革案を書いた。理事会に諮った。新たな理事には宇宙飛行士の山崎直子さん、オペラ歌手の森麻季さんらに加わってもらった。その上で私から教職員全員、保護者会、生徒全員に説明した。10項目だったが、覚えやすくするため「ジエシカ改革」と名づけた。

《どんな内容か》

「ジ」は自主的に考えて自立する女性を目指すというものでこれを教育目標にした。外国で長く働いてきた私の経験を生かしてこれから社会で活躍する女性を育てようと思った。厳し過ぎた校則を改定し、土曜日の授業をやめ、部活は原則週3回に制限した。自分で時間管理をすることが自主性涵養の第一歩との考えからだ。また受験に強い授業のため、開成学園の校長を9年間務め、教育界で著名な柳沢幸雄東大名誉教授を学園長に招き、最も効率的な勉強法を指導してもらっている。

「エ」は英語だ。専属のネーティブ教員はいなかったので、米国人の若い女性教員3人を週40時間の専属教員とした。イングリッシュルームという広い部屋をつくり、放課後に彼女らが常駐し英会話、英語ゲームなど英語漬けにする環境を作った。

「シ」は施設、設備の一新だ。毎月検討会を開き、現場を見て歩いた。校舎をリフォームしたほか、机、椅子、カーテンなども新たにした。白と木の美しい校舎になった。新たに音楽校舎を造り、飲み物を飲みながらおしゃべりしていい自習室も作った。全生徒にタブレットを支給しICT(情報通信技術)に力を入れた。制服はコシノジュンコさんに明るい服をデザインしてもらった。

「カ」は鎌倉に密着だ。観光資源が豊富な古都を利用しない法はない。円覚寺管長、鶴岡八幡宮宮司の許可を得て境内で生徒がボランティアで英語ガイドを行っている。鎌倉ロータリークラブから支援も得ている。鳩サブレーの豊島屋の久保田陽彦社長に監事になってもらい、同社とのコラボも始めた。

《抵抗はなかったのか》

抵抗はあまりなかったが行き過ぎはあった。教職員との個別面談の際、副読本は買わずにアプリにしろ、板書や講義はせずディスカッションだけにしろ、という指示が最近出ているが、学力を伸ばすという点で大丈夫か、という指摘を受けて愕然(がくぜん)とした。一部の教員の走り過ぎを全く知らなかった。たしかに米国の学校などではディスカッションをやるが、課題図書を読んだ上での話だ。知識のない者同士が議論しても意味はない。

従来型の授業に戻す旨のペーパーを書き、全教職員を集めて説明した。校長には4つの県立高校の校長を経験した佐野朗子さんを招いた。またICT教育のトップに他校で副校長を務めていた田邊則彦氏になってもらった。指導のおかげで、昨年探求学習の成果を発表し2つの全国コンクールで優勝した。

来年からは満を持して新たに国際コースをつくる。国際社会で通じる考え方、使える英語に重点を置いたコースだ。理事長として学校の形をつくり、英語や国際関係の授業も行っている。人生最後の仕事として取り組んでいる。(聞き手 内藤泰朗)

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