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海保の防災専門組織に迫る船舶新燃料の潮流 事故に備え企業回り情報収集、海外機関と連携

産経ニュース 2024年8月23日 10時34分

船舶事故などに対応する海上保安庁で、船の燃料や危険有害物質の流出に対応する専門組織「機動防除隊」が来年、発足30年を迎える。全国各地の海保部署では対処が困難なケースで事故を起こした船舶側を指導しながら燃料の回収などにあたり、他国の大規模事故でも派遣されてきた。海上防災のプロ集団は船舶の脱炭素の潮流の中で進んでいく新燃料導入の取り組みを注視し、対応策構築のために関連企業との人脈作りや情報収集に動く。

資機材の使用訓練、交渉術の研修も

粘度が高く、黒褐色の重油が入った容器に「C重油」というラベリングとともに硫黄分などのデータが記載されていた。機動防除隊の拠点がある横浜海上防災基地(横浜市)の資機材庫には過去の活動で手に入れた油がサンプルとして保管され、調査研究などに使われている。

4隊16人が所属し、防護服、ガスマスク、ガスの検知管、油回収の資機材などが配備されている。船舶で曳航(えいこう)する大型集油装置「カレントバスター」は空気を入れて長さ30メートル超、幅20メートル超にまで広げて使用し、海水とともに取り込んだ油を分離させて回収。隊員たちは日々、資機材の使用訓練、防護服を着用してのトレーニングなどを行い、遠方への出動では羽田空港から飛行機で向かう。

現場で応急処置的な対応をしながら事故の原因者に最終的な処理を行わせる一方、他の行政機関、地元漁協など関係者間の調整役も担うため、交渉術の専門家の研修も受けてスキルを磨く。現場で隊を率いる佐々木俊政・主任防除措置官(53)は「防除隊は海保で唯一、海上防災のプロフェッショナルと言われており、誇りを持って任務にあたっている」と説明する。

3月に山口県下関市の六連島(むつれじま)沖で韓国船籍のケミカルタンカーが転覆した際は毒性のあるアクリル酸約980トンを積んでいたため緊張度が上がったが、船体に損傷がなかったことからアクリル酸の流出はなく、燃料タンクの空気抜き管をふさぐ処置などを実施した。

新燃料対応「新たな挑戦」

平成7年4月に発足した同隊は9年のナホトカ号重油流出事故などを受け順次増強され、他国への支援や研修実施など活動の幅を広げてきた。二酸化炭素(CO2)を出さないアンモニアなどの新燃料の船舶への導入に対応することが今後の課題となり、関連の国内会議や企業に足を運んで人脈を広げ、情報収集している。昨年5月には連携するインドの海上保安機関とアンモニア燃料に関するワークショップを開催した。

佐々木さんは「海上に流出したときにどう対応するかを考えないといけない。われわれは新たな挑戦が求められている」と力を込めた。(高久清史)

「防災のトップに」救助のエキスパートも志望

海上防災を担う機動防除隊に海難救助のエキスパートである潜水士、機動救難士として活動していた海上保安官が配属されることは珍しくない。

昨年4月に着任した藤田博史さん(46)は救急救命士の資格を持ち、機動救難士として救助畑を歩んできた。転覆した漁船に取り残された人を助けた際、狭い空間の中で自身の呼吸器材を相手にくわえさせて脱出した。海上保安庁の中でトップの仕事をしたいと考えるようになり、「防災のトップである防除隊を志望した」。

取り扱う資機材の種類が多いため時間を見つけては触って手になじませるようにし、家に帰っては資料を読み込んでいる。救助活動との大きな違いは関係機関と交渉、調整することだといい、「そういうところが難しい。今後も調整能力を身に付けないといけない」と話す。

今年4月に着任した渡辺翼さん(41)も機動救難士として活動した経歴を持つ一人。「20代、30代のころはレスキューでバリバリやりたいと考えていたが、海洋環境保全にはもともと興味があった」と志望理由を説明する。

約3カ月間の研修を受け、7月5日には隊が所属する第3管区海上保安本部(横浜市)の宮本伸二本部長から赤色の出動服を手渡された。出動服の右腕部分には日の丸があり、渡辺さんは「国際貢献の分野に関心があったので、いざというときは率先して手を挙げたい」と決意を新たにした。

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