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「特大かつ丼で強くなった」野村忠宏さん、篠原信一さんが愛した「とんよし」惜しまれ閉店

産経ニュース 2025年1月31日 11時58分

強豪・天理大柔道部をはじめ多くのアスリートを支えた奈良県天理市のとんかつの名店「豚喜(とんよし)」が今月、約50年の歴史に幕を閉じた。2代目の西本容子さん(75)が「元気なうちにやめたい」と決断。食べ応えのある大きなとんかつは選手たちの胃袋を満足させてきた。「ここのかつ丼を食べて、強くなれた」。五輪メダリストらからも惜しむ声が上がる。

最終日は長蛇の列

最終日となった今月13日、店の前に長蛇の列ができていた。容子さんと一人娘の3代目、宏子さん(51)のほか、宏子さんの夫の会社員の豊さん(52)も手伝った。最後の客を見送ったのは深夜1時半を過ぎていたという。容子さんは「多くの人から愛されてうれしい」と笑った。

昭和47年、東京で日本料理の修業をしていた容子さんの夫、故・勝さんが地元に戻り、天理駅前のビルの地下に店を開いたのが始まり。同駅は多くの学生が利用しており「食べ応えのあるとんかつをメインにしよう」と決めた。

創業時からメニューは変わらず、一番人気はかつ丼。サイズは並・大・特大があり、大と特大はとんかつ2枚を卵3個でとじ、ごはんはどんぶり茶碗(ちゃわん)にたっぷり盛った。

店は繁盛したが、平成2年に勝さんががんで死去。容子さんは、高校2年生だった宏子さんが高校を卒業するまで踏ん張ろうと店で修行していた料理人と経営を続けた。

その後、宏子さんが卒業し料理人が独立した後も容子さんが調理を担当して店を開けることに。短大を卒業した宏子さんが手伝い始め、母娘二人三脚で味を守ってきた。

かつを食べて甲子園

ボリュームだけでなく、容子さんの笑顔と人柄にひかれて店に通ったアスリートは多い。

元プロ野球選手で、大阪学院大硬式野球部監督の中村良二さん(56)もその1人。天理高野球部時代は、練習のない日は部員全員でほぼ毎日のように通った。試合前日にはとんかつを食べて活(かつ)を入れ、昭和61年夏の全国高校野球選手権大会で優勝した。

その後も宏子さんの結婚式に出席するなど縁は続く。閉店を知った中村さんは、宏子さんに「終わりがあって始まりがある。今はゆっくりして、次の再開を待っています」とメールを送った。

柔道で五輪三連覇の野村忠宏さん(50)も、天理高・大時代に通った。引退後も奈良に帰る際には必ず顔を出したといい、昨年12月に訪れた際はX(旧ツイッター)で「ここの特大かつ丼を食べて強くなった」と振り返り、「青春の味がなくなるのは寂しいな」と惜しんだ。

「一つ一つが宝物」

常連客にはほかに、柔道五輪メダリストの細川伸二さんや篠原信一さんらもいる。店内にはアスリートらの寄せ書きや写真、天理高野球部の部員が甲子園から持ち帰った土が飾られていた。

閉店2日後の15日に店を訪れると、容子さんは写真などを手に取り「一つ一つが宝物。家に大切に飾ります。感謝しかありません」と晴れやかな表情を浮かべた。宏子さんはのれんをなでながら「いずれ1人でできるようなこぢんまりしたお店を開き、こののれんを上げたい」と夢を語った。(木村郁子)

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