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大隈講堂からピアノを持ち出して 過激な番組「ゲバ学生vs猛烈ピアニスト」  話の肖像画 ジャーナリスト・田原総一朗<13>

産経ニュース 2024年10月13日 10時0分

大隈講堂からピアノを持ち出して

《東京12チャンネル(現テレビ東京)の〝危険なディレクター〟田原さんは、より面白い、より過激な番組をつくり続ける。昭和44(1969)年に放送された『バリケードの中のジャズ~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~』もそのひとつ》

「すごいジャズピアニストがいる」と紹介されたのが山下洋輔さん(82)でした。早速、僕も聞きにいくと、すさまじいピアノを弾く。僕は、ぜひその姿をドキュメンタリーで撮りたいと思ったね。話をすると、彼は「ピアノを弾きながら死にたいんだ」という。

当時は学生運動が激しかったころで、早稲田大学の校舎も過激派の学生によってあちこちでバリケード封鎖されていた。ならば、その中でピアノを弾かせ、乱闘の中で死んでもらおうじゃないかと…(苦笑)。

作戦はこうでした。まずは、大学の大隈講堂に置いてあるピアノを、警備のスキをついて盗み出す。ピアノは大学が大事に保管している名器らしい。それを過激派の学生が占拠している法学部の地下ホールに運び入れる…大騒ぎになるのは必至でしょう。というか、そうなれば、もっと面白い、とディレクターとしては期待するわけ。

このとき、盗み出しに手を貸した学生の中には後に著名な作家になった人がたくさんいたらしい。まぁ真相は分かりませんし、あくまで自己申告ですけどね。逆に「阻止しようとした」という学生もいました。音楽関係のサークルの学生たち。

《無事? ピアノ盗み出しに成功し、過激派学生が見守る中で山下さんのピアノ演奏が始まる。田原さんが〝期待した〟乱闘は起きなかった》

そこに、(占拠している学生と)対立するセクトの学生が駆けつける。警官隊もやってくる。ピアノを盗まれた大学側も黙っていないでしょう。大乱闘の中で山下さんが死んでゆく…とは、ならなかった。

なぜならば、山下さんの演奏があまりにすごくて、皆が聞きほれてしまったから。それくらい見事な演奏でした。演奏が終わると「よかったねぇ」と言い合って喜んでいる。番組も無事、放送されました。なぜか、大学側からの抗議は一切ナシ。抗議がくれば、ケンカをしてまた面白くなったのにねぇ。

今じゃ、こんなむちゃはできないって? そうかもしれないけど、今の番組制作者は批判を恐れすぎているよね。だから、面白いものができない。もちろん『バリケードの中のジャズ~』は、すごく話題を呼んだよ。

《新宿でたむろしていたフーテンたちが、ワイドショーの司会で人気を呼んでいた木島則夫(きじまのりお)(※1925~90年、ワイドショーの先駆けとなった旧NET<現テレビ朝日>系「木島則夫モーニングショー」の司会者などを務めた)の公開番組会場に乱入する場面を番組で撮影して、大騒ぎになったこともある》

木島さんが別の局で新番組をやるというので、宣伝のために新宿の旧コマ劇場前の広場に大きな舞台を組み、公開放送を行うという。それが不愉快だとして、フーテンたちが舞台に上がって暴れたわけですよ。

まぁ、そこで公開番組をやることは新聞などで事前告知されていたし、他にもいろんな連中が会場に来ていた。木島さんもある程度の騒ぎになることは分かっていたんじゃないかな。この一部始終を僕らは撮った。

結局、木島さんは舞台から逃げ、近くの喫茶店から放送をやった。大騒ぎになってからパトカーが何台もやってきて「誰がやった?」と聞かれた。もうフーテンたちは逃げた後で仕方なく名乗り出た僕が警察に連行され、しっかり取り調べを受けましたけど…。(聞き手 喜多由浩)

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