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熊野古道の人気支える外国人客 世界遺産登録20年、ツアー団体売り上げ昨年度最高に

産経ニュース 2024年7月6日 12時7分

和歌山、奈良、三重3県にまたがる世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道(みち)」が平成16年に世界遺産に登録されて7日で20年。構成資産のうち熊野三山と呼ばれる和歌山県内の3つの神社につながる「熊野古道」が、オーストラリアや欧米などの外国人観光客の人気を集めている。古道ツアーを手掛ける地元団体が外国人の誘客に力を入れてきた結果で、昨年度の団体の旅行事業売上高は過去最高となった。

熊野古道は古来、上皇や貴族、庶民に至るまで熊野本宮大社(同県田辺市)、熊野那智大社(同県那智勝浦町)、熊野速玉大社(同県新宮市)の参詣に用いた道。10世紀前半には参詣に使われていたとされる。このうち昔の姿が残る和歌山県内などの計約210キロ=中辺路(なかへち)・大辺路(おおへち)・小辺路(こへち)・伊勢路(いせじ)=が「熊野参詣道」として世界遺産に登録されている。

ただ、16年7月に登録される前までは古道を訪れる観光客は多くなく、2年後の18年、田辺市内の5観光協会が「田辺市熊野ツーリズムビューロー」を設立。22年に一般社団法人化し、熊野古道を中心としたツアーや個人旅行手配などの旅行事業を始めた。

旅行事業の売上高はその後、順調に増加。新型コロナウイルス禍の令和2~3年度は激減したものの、4年度から回復基調に。5年度は過去最高だった元年度(5億2180万円)の1・68倍となる8億7602万円に達した。5年度の売上高のうち84%を古道ツアーに参加するなどした外国人客が占める。

数日歩く旅多く

ただ、熊野古道が外国人客に浸透したのは一朝一夕の話ではない。ビューローは設立以降、「世界遺産になったのだから、世界の人に来てもらおう」と、さまざまな取り組みを通じて海外にアピールしてきた。

まず着手したのが、外国人客の受け入れ環境の整備。熊野古道の案内板などの英語表記がばらばらだったのを統一し、英語のガイドブック・マップを作成した。さらに、日本に駐在する海外の旅行会社関係者を招待して実際に古道を見てもらったり、ビューロー職員が海外の旅行会社まで出向いてPRしたりした。

アピールの結果、熊野古道は平成23年に外国人に日本の観光地を紹介する「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で最高評価の三つ星を獲得。同年、欧米で人気の旅行ガイドブック「ロンリープラネット」にも紹介され、徐々に認知されていった。

また、ビューローでは、スペイン北西部にあるキリスト教の聖地で、巡礼路が世界遺産に登録されているサンティアゴ・デ・コンポステーラ市観光局と協定を締結。世界遺産を訪れる巡礼者に同観光局が熊野古道を紹介していることも効果があったという。

熊野古道は、古来と変わらない道を歩いて楽しめるのが魅力だ。ビューローによると、訪れる外国人客はオーストラリアが最も多く、次いで米国、英国が続く。数日をかけて古道を歩く旅を楽しむケースが多いという。

ビューローの多田稔子(のりこ)会長は「千年以上前の道が残っているのは奇跡で、外国人客はそこに神秘性を感じている。また、欧米などには歩く旅を楽しむ層があり、こうした人たちに受けている。日本ではまだまだ歩く旅が浸透しておらず、熊野古道を歩くよさを知ってほしい」と話している。(張英壽)

紀伊山地の霊場と参詣道 和歌山、奈良、三重3県にまたがり、「熊野三山」「高野山」「吉野・大峯」の3つの霊場と、各霊場に至る参詣道で構成。平成16年7月7日、国内12番目の世界遺産として登録され、28年に追加登録も行われた。参詣道は熊野三山につながる「熊野参詣道」、高野山につながる「高野参詣道」、吉野・大峯と熊野三山を結ぶ「大峯奥駈道(おくがけみち)」がある。

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