2025年大阪・関西万博の開幕まで5カ月を切った。健康に関する出展を予定するベルギーは平均寿命が80歳を超え、日本と同様に高齢化が進んでいる。誰もが経験する老いにどう向き合うべきか。よりよく生きる「ウェルビーイング」を推進するリエージュ大(1817年創立)のステファン・アダム教授(老化心理学)に聞いた。
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高齢化は日本だけでなく、ベルギーなど欧州連合(EU)諸国でも重要課題としてとらえられている。ただ、私は高齢化に対する認識そのものを変えていくべきだと考えている。
どの国でも、死に近づく老いは恐怖であり、嫌悪の対象になりやすい。
2016年に実施したアンケートで、若者や働く世代に「年を重ねること」へのイメージを聞くと、孤独▽遅い▽障害▽病気-といった否定的な回答が多く寄せられた。
逆に「若さ」のイメージは、元気▽健康▽スポーツ的▽美しい-といったポジティブな言葉が並ぶ。アニメや小説でも、高齢のキャラクターほど意地悪でみすぼらしく描かれがちだ。
しかし実際のところ、高齢者は老いた自分をネガティブに受け止めていない。国連の持続可能開発ソリューション・ネットワークが発行する「世界幸福度報告」では毎回、60代以上の幸福度が年代別では最も高くなる傾向にある。
対話がもたらす効果
高齢者への否定的なイメージは、生産主義社会が影響していると考えられる。先進国の多くでは労働によって価値が生み出され、働かない高齢者は「社会の重荷」とみなされる。各国で増大する社会保障費の問題も起因しているだろう。
では、どうすればいいのか。まずは高齢者を助けすぎていないかと考えてみてほしい。高齢になり、できなくなったことに焦点を当てるより、できることを高齢者から奪わずに任せるべきだ。
高齢者が受けている医療が本当にその人にとって効果的か、必要なのかも検討すべきだろう。投薬よりも、医療従事者らと対話を重ねる方が物忘れや認知症を予防する効果が得られるとの報告がある。投薬よりはるかに健康的かつ経済的だ。
人は必ず老いる。老いについて正しく理解し、向き合うことがウェルビーイングにつながるはずだ。(聞き手 石橋明日佳)