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加速する高齢化、救急態勢見直し…地方が悲鳴を上げる「医師の偏在」の実態

産経ニュース 2024年12月22日 10時0分

都市部など一部地域に人材が偏る「医師の偏在」を巡り、医療現場が苦悩を深めている。地方では医師の高齢化が加速しており、救急態勢の見直しを迫られる医療機関も。「このままでは地域医療を守り切れない」。砦(とりで)を守る現場医師たちの思いは切実で、偏在の是正に向けて厚生労働省は年内にも、総合対策をとりまとめる。

70代が月8回の当直勤務

「当直勤務は昔、55歳くらいになると免除されていたが、今は60代以上にもお願いしなければ回らない。月8回ほど当直に入る70代の産婦人科医もいる」

16診療科と約400の病床を持ち、地域の中核病院として多くの急性期患者を受け入れる「阿南医療センター」(徳島県阿南市)の前田徹院長(66)は、こう打ち明けた。

約45人いる常勤医の平均年齢は53歳。前田院長も朝7時半ごろには始動し、外来診療のほか週平均で5件の手術も担う。帰路につくのは夜9時ごろが多く、自身も月1回ほど、当直にも入る。

徳島県は医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が令和4年末時点で335・7人と、全国トップ(全国平均262・1人)。だが人材の52・22%は徳島市に集中し、医師不足が深刻な他地域では人材の高齢化が著しい。

同センターは徳島大病院から医師派遣を受けるが、近年は同大の医学生は国家試験合格後、県外に出ていく傾向にある。派遣してもらえる若手・中堅医師は少なくなっており、県南部では勤務医のみならず、開業医の高齢化も進む。後継者がなく、閉院を模索する動きも広がっているという。

「10年先には地域医療を支える人材がいなくなるかもしれない」。前田院長は危機感を隠せない。

引退の理事長も復帰

地域だけでなく「診療科の偏在」も影を落とす。

医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が4年末時点で全国最少(180・2人)の埼玉県。特に深刻なのが、1市4町からなる秩父医療圏(人口約9万2千人、同年末時点)だ。

同医療圏は夜間・休日に入院が必要な救急患者を交代で受け入れる輪番制を導入。かつて7病院の参加があったが、医師不足を背景に離脱が相次ぎ、今は3病院で回している。

こうした中、3病院の一つで民間病院の「秩父病院」(同県秩父市)が来年度、夜間・休日の輪番制から撤退することに。「現場にこれ以上の負担を強いることはできない」。同院の花輪峰夫理事長(76)は、苦渋をのぞかせる。

15診療科がある同院は年間約500件の手術を担う。52ある病床の稼働率は9割近いが、常勤医7人中外科医は2人だけ。外科医を志す若手の減少も指摘される中、人材集めは困難を極めてきた。2年半前に引退した花輪理事長は復帰し、今も外科医として働いている。

宿直は開業医らの助けも借りながらなんとか回すが、週1回以上のペースで入ってもらわなければ立ち行かない。「ぎりぎりの状態」(花輪理事長)は続く。

「実効性ある対策を」

全国の医師数は令和4年時点末で約34万人。40年で約2倍に増加したが、近年は都市圏での就職を希望する者が多く、激務とされる外科や救急科、産婦人科などでは人材不足が深刻化している。収益を上げやすい美容外科に人材が流れ、医師の偏在に拍車をかけているとの指摘もある。

各地では、大学の医学部入試に卒業後一定期間の地方勤務を条件とする「地域枠」を設けるなどして偏在の解消を模索。同枠の定員は昨年度、全国で約1700人に上った。

取り組みは一定の効果をあげるが、地方で専門性を高めることや私生活の両立に難しさを感じる人もおり、人材定着の決定打にはなってはいない。

埼玉県では医師免許取得後、特定地域の公的医療機関などに一定期間勤務すれば、返済が免除される奨学金制度を用意。ただ、人材を欲する秩父病院などは制度の恩恵を受けれていない。公的・民間の区別のない偏在対策を求める声も上がる。

花輪理事長は「行政は各病院が置かれる窮状をしっかりと見て、実効性ある対策を講じてほしい」と話している。(三宅陽子)

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