奈良県河合町役場の敷地内にある旧豆山荘(まめやまそう)を活用しようという取り組みが始まっている。大正12年に実業家だった森本千吉(1864~1937年)が建設した邸宅で、官公庁内に個人の邸宅が残されているケースは珍しい。町は、文化財としての価値を探ってどんな活用ができるか検討し、登録有形文化財も目指すとしている。
町や県教委によると、森本は建設会社「森本組」(大阪市)の創業者で、立地場所の馬見丘陵一帯を指す通称「豆山」から豆山荘と名付けた。木造2階建てで、森本の死後の昭和23年、河合村(現・河合町)に寄贈されて村役場として利用された。46年に町制施行された後の50年ごろまで町役場として使われた。
町制施行に伴い新庁舎が建設された際、一部が取り壊され、現在は主屋、シャンデリアがある離れ、邸宅の入り口にあたる棟門(むねもん)が残っており、町役場の入り口にもなっている。文化財指定はされていない。これまで大規模な修理などは実施されず、現行の耐震基準を満たしていないが、現在は町シルバー人材センターの事務所として使われている。
活用に向けた動きが起きたのは、令和4年に町と畿央大(広陵町)が包括連携協定を締結したのがきっかけ。これを受け、同大学健康科学部人間環境デザイン学科の前川歩准教授と学生が旧豆山荘の調査に取り組むようになった。
さらに昨年10月には、河合町と畿央大、森本組が保存や活用の検討に関する協定を締結し、畿央大が文化財としての価値を探る調査や活用方法の提案、森本組が修理などについての技術的提案、町が運営手法の検討を行うことになった。町は、観光資源としての活用や、町民がボランティアで継続的に建物を補修するような保全方法を想定している。
町政策調整課の岡田健太郎課長は「役場の中に個人の邸宅があるというケースはほとんどないだろう。どんな活用ができるか、5年、10年以上かかるかもしれないが、長い時間をかけて検討したい」と話している。(張英壽)