中国の春節(旧正月)連休から一夜明けた5日、中国メディアはこの期間の海外旅行先のトップが日本だったと報じた。来日した中国人客には、手当たり次第に日本製品を大量購入する「爆買い」を控え、目当ての商品を選別して求める姿が目立った。新型コロナウイルス禍で訪日客が途絶えたことも記憶に新しく、消費の変化や不測の事態を見据えた受け入れが必要だと指摘する声もある。
東京・銀座の中古ブランド品店「ブランドオフ銀座本店」は、連休最終日の4日も中国人客らで大混雑だった。エルメスやシャネルの高級バッグが人気で、店長の駒田武さん(46)は「とにかく在庫を切らさないようにした」と話す。
この日は都内屈指の観光地である浅草も中国人団体客でにぎわった。観光人力車「東京力車」の車夫、金光俊典さん(29)は「客の半数は中国からで、去年よりも多い印象だ。タクシー代わりに使ってくれる人もいた」という。
〝春節景気〟は各地に広がった。函館市では、路面電車の乗客が「春節前に比べて1・5倍ほど増えたのではないか」(市企業局交通部の西村仁志さん)。東京・浅草寺近くの和菓子店で働く吉岡晴美さん(47)は「30個ものどら焼きを買っていく中国人客もいた」と驚いていた。
口コミみて購入、買わずに帰る人も
中国人客の爆買いに、変化の兆しもみられる。渋谷センター街近くの大型量販店「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」では、店員にスマートフォンで商品の写真を見せ、特定の健康食品などを求める中国人客が目立った。店長の西川智博さん(36)は「コロナ禍前の買い方とは異なり、事前に口コミなどをみて購入するようになった」と感じたという。
渋谷の宝石店「スタージュエリー」では、春節休暇を含む1月の中国人への売り上げが昨年同期比で1・7倍に増えた。ハート形のルビーのネックレスを目当てにした客が目立ち、担当者は「中国のSNS(交流サイト)で話題になったからではないか」と話す。
沖縄県読谷(よみたん)村の菓子店「御菓子御殿読谷本店」でも中国人客が増えたが、「買わずに帰る人も散見され、売り上げはさほど変化がなかった」と店長の比嘉誠太さん(28)。爆買いのイメージは薄れつつある。
中国だけターゲットのリスクは
欧米からの訪日客には、文化体験などサービスに向かう「コト消費」が目立つのに対し、中国人客は物品購入を中心とした「モノ消費」が多いとされる。モノからコトへの移行は、経済成長を遂げることで物品が行き渡って関心が薄れる「消費の成熟化」でもある。この春節休暇の中国人の購買行動は、その移行の兆しかもしれない。
第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「中国の1人あたりの旅行支出額は減少傾向で、爆買い消費も落ち着きつつある」とした上で、「SNSを駆使した日本の魅力的な体験型サービスの発信にも注力していくべきだ」と語る。
訪日客が絶えたコロナ禍の教訓も踏まえる必要がある。中国には外交問題に伴う渡航自粛などのリスクもあり、永浜氏は「観光ターゲットの軸を中国人だけに置くのではなく、グローバルな視点が重要だ」と指摘した。(山本玲、塚脇亮太、宮崎秀太、堀川玲)