第28回司馬遼太郎賞(司馬遼太郎記念財団主催)は2日、麻田雅文・岩手大准教授の「日ソ戦争 帝国日本最後の戦い」(中央公論新社)に決まった。賞金100万円。贈賞式は来年2月11日、大阪府東大阪市の市文化創造館で開かれる「第28回菜の花忌」に合わせて行われる。
満場一致で選出
受賞作は、ロシア公文書館が保管する新史料を基に旧ソ連軍の性質や戦法を解き明かし、先の大戦末期に旧ソ連軍が旧満州国(現中国東北部)などに侵攻した日ソ戦争を多面的に捉える研究書。
麻田さんは昭和55年、東京都生まれ。ジョージ・ワシントン大客員研究員などを経て現職。専門は近現代の日中露関係史。著書に「日露近代史 戦争と平和の百年」など。
また、第28回司馬遼太郎フェローシップは該当者なしだった。
2日午後に行われた選考委員会後の記者会見では、選考委員らが「満場一致」での選出となったことを明かした。
ソ連と米が協力「こういう視点必要」
選考委員の一人で時代小説家の木内昇氏は「日ソ戦争について、日本人が知ったつもりでいるが知らなかったことを掘り下げている。関東軍やソ連軍の軍事戦略だけでなく、実際にそれを体験した市民の生の声を取り上げており、多面的に日ソ戦争を知ることができるレベルの高い一書だ」と称賛。
歴史小説家の安部龍太郎氏も「日ソ戦争はソ連側の一方的な侵略という文脈で語られることが多いが、アメリカとの協力で作戦を取ったことを新しい史料を用いて見事な筆致で書いている。こういう視点が戦後80年を迎えるいま、必要になってくる」と意義を強調した。
ノンフィクション作家の柳田邦男氏は「日ソ戦争は日本とソ連が真正面からぶつかりあった戦争だ。今までは主として日本人入植者の引き揚げの悲惨さを中心に語られてきたが、戦争の時代を考える上で空白になっていた戦史をしっかり埋めてくれた」とたたえた。
司馬作品きっかけで研究の道に
オンラインで記者会見に臨んだ麻田さんは「非常に高い評価をいただき励まされた。今回の受賞で日ソ戦争に光が当たり、戦争で犠牲になられた方や、今まで語られなかった人たちにも光が当たることがうれしい」と声を弾ませた。
司馬作品との出合いは、中高生のころに読んだ「坂の上の雲」だったという麻田さん。「(同作で)ロシアの政治家のウィッテが非常に魅力的な人物として書かれていて、自分で調べていくうちにロシアのことに引き込まれていった。司馬先生の本がきっかけで研究の道に進んだようなもの」と語った。