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生産者を守る商品づくりへ 乾燥から「生」の使用に フジッコ「生昆布」の挑戦  昆布の未来は 再生へ向けて

産経ニュース 2024年8月30日 10時30分

大阪の「だし文化」を支えてきた昆布。この連載では、最大産地・北海道での生産量激減や後継者不足、食生活の変化による需要減など、昆布に迫る危機をみてきた。今年度の北海道の昆布生産量は過去最低になる見込みで依然先行きは厳しいなか、生産者を支援する取り組みも始まっている。昆布つくだ煮商品で国内最大手のフジッコ(神戸市)は、生産者の負担軽減につながる商品づくりに乗り出した。

乾燥から生へ

フジッコの鳴尾工場(兵庫県西宮市)。ぐつぐつと沸く湯に、冷凍の細切り昆布が次々と沈められ、解凍されていた。その後、形が崩れた昆布を取り除くなどし、洗浄してカットする。主力商品の昆布のつくだ煮「ふじっ子煮」の新商品「ふじっ子煮MIRAI」の製造風景だ。

従来のふじっ子煮は水揚げ後、産地で乾燥させた「乾燥昆布」を使用。一方、ふじっ子煮MIRAIは収穫後すぐに産地で冷凍し、運ばれてきた「生昆布」を使っている点が特徴だ。

解凍した昆布を試食すると、プリっとしていて歯応えの良さを感じる。品質管理課の岡田武士さん(37)は「乾燥昆布を戻したものとはハリ・ツヤが全然違う」と話す。生昆布の導入は、昆布生産の持続性を考えた取り組みという。

産地の負担減

ふじっ子煮の原料は、煮物に向く北海道東部産の天然ナガコンブ。ここでは収穫後に天日干しで乾燥させるのが主流だ。長いものでは10メートルを超える昆布を1枚1枚干す。水分をたっぷり含んだ昆布は重い。干しても、雨が降れば取り込まなければならない。天日干しは重労働だ。

また、乾燥後、一定の長さに切りそろえ等級別の選別、荷造りなどの工程も生産者が担う。生産者の高齢化、後継者不足が続くなか、MIRAIはこうした作業の負担軽減を目指した。事業に協力する生産者の作業は水揚げまで。その後はフジッコと北海道漁業協同組合連合会が連携し、同漁連の加工場や冷凍設備を使って昆布の洗浄、切断、冷凍貯蔵まで行い、鳴尾工場へ輸送している。

新たな価値を

同社が、生昆布事業に着手したのは令和2年から。昆布は伝統的に乾燥させて流通してきた。だし昆布は熟成期間が必要で、また全国に運ぶための保存法としても都合がよかったためだ。同社も主力は乾燥昆布。生昆布を扱うには新たなノウハウも必要だったが、同社昆布事業部の紀井孝之部長は「これからは昆布や生産者を守ることも考えていかなければ」と語る。

令和4年に販売開始。切断機などの設備投資や輸送、新たな製造工程の導入などでコスト増となり、まだ採算は取れていない。だが、紀井さんは「SDGs(国連の持続可能な開発目標)に即し生産者に寄り添う商品で会社全体が活性化した。昆布の未来のためにも必ずプラスになる」と力を込める。味に関しても「弾力のある食感や鮮度感などは乾燥昆布を上回る」と自信をみせる。

MIRAIシリーズは「梅入り生昆布」「うま辛生昆布」「わさび生昆布」の3種類。販売数は予想を上回り「新たに加わった『わさび』は爆発的な売れ行き」という。

北海道漁連の試算(6月末時点)によると、令和6年度の道産昆布の生産量は9812トンと初めて1万トンを下回る見込み。資源確保の問題は深刻さを増す。生昆布はまだマイナーな存在で、昆布不足が続くなか、仕入れ量を増やしていけるか懸念もある。

だが、紀井さんは「食文化継承のためには消費拡大が欠かせない。昆布に新たな価値を感じられる商品も必要」と話す。生昆布を使った新たな商品を開発中という。

生昆布は昆布の未来を切り開くのか、挑戦は続く。

高水温に強い品種開発

生産量がピーク時から約97%減となった産地もあるなど、危機的な状況にある天然昆布。生産量の急激な回復が見込みにくいなか、養殖生産の重要性が増している。海水温の上昇など環境の変化も生産量激減の一因とされ、高水温に強い品種の開発が進められている。

真昆布の一大産地、北海道函館市の南茅部地域では、南かやべ漁業協同組合、北海道大、フジッコ、理化学研究所の4者が連携し、品種開発に着手。北大北方生物圏フィールド科学センターの四ツ倉典滋(のりしげ)教授によると、放射線の一種、重イオンビームを当てて突然変異を誘発し、高水温でも生育の良い昆布を選抜して品種改良している。

南茅部で促成養殖(1年)の実験を続けており、今年で3期目。形状の良いものや従来の促成を上回る品質のものもあり「いい成果がみられ始めた」(四ツ倉教授)。国産昆布で初の品種登録も目指している。

促成養殖の課題の一つは、海水温が上がると、品質低下のもとになる付着生物が昆布に付いてしまうこと。今年から、これを抑制できる品種を想定した選抜や採苗も始めるという。

四ツ倉教授は「まずは国内養殖の先駆けの地である南茅部のために成果を上げ、その技術を将来、北海道各地に広げて昆布の増産につなげたい」と意欲を語る。(北村博子)

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