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小泉氏と安倍氏、2人の宰相の強みとは 〝言葉の天才〟と「聞く耳」を持った人 話の肖像画 ジャーナリスト・田原総一朗<28>

産経ニュース 2024年10月30日 10時0分

《総選挙で惨敗した石破茂首相は過去の宰相とは何が違ったのか? 小泉純一郎首相は平成17年9月の総選挙で郵政民営化に反対する自党候補に〝刺客〟まで送り込んで大勝する…。小泉氏の側近議員に田原さんが呼ばれたのはこの4年前、13年4月の自民党総裁選前のことだった》

側近曰(いわ)く、「小泉はすでに2度総裁選に出て敗れている。今度、負けたら政治家として終わりだ。どうすれば…」。相談を受けた僕はこう言った。

「これまでの首相は(党内最大派閥である)旧経世会(竹下派)の出身か、そこから支援された人ばかり。これに公然と対抗して、ぶっ壊す覚悟があるのなら僕も応援する」と…。側近は「それを本人に言ってほしい」と言い、しばらくして小泉さんが姿を見せた。

僕が改めて確認したら小泉さんは命がけでやる、などと断言した。ただ、文言はその後、「自民党をぶっ壊す」になったけどね。小泉さんは言葉の感覚に優れていて、イエス・ノーがはっきりしている。度胸がよくて、アピール力があった。〝言葉の天才〟かな。

《そして、冒頭に書いた「郵政選挙」だ。これより前、郵政民営化関連法案に一部の自民党議員が反対票を投じ、否決されてしまう。解散総選挙か、内閣総辞職か…》

参院での採決前に森さん(喜朗氏)が首相官邸に乗り込んで、説得しようとしたんだ。解散しないように(継続審議にしよう)と。だが小泉さんは断固解散すると聞かなかった。

森さんは記者団に「(小泉首相は)変人以上。すしでもとってくれると思ったら干からびたチーズ…」とぶちまけたわけ。「サンデープロジェクト」に出演してくれた森さんは小泉批判を改めて展開したけれど〝干からびたチーズ〟、実は、高級品だったというオチ(苦笑)。小泉さんは解散・総選挙に打って出て圧勝。「小泉劇場」の完成ですよ。

《一方、(第2次政権時の)国政選挙に、すべて勝ったのが安倍晋三首相だった》

安倍さんはやりたいことや発するメッセージが、はっきりしていた。たとえば、「戦後レジームからの脱却」。安倍さんが目指したのは、日米同盟を維持しつつも、対米従属ではなく、日本が主体性を発揮する「誇りを持てる国」になる、ということでしょうか。

首相になった安倍さんは自身の信条に従って行動しますが、僕はこのまま突き進むと、アメリカが「安倍政権を潰しにかかるのではないか」と心配して率直に安倍さんに言いました。

安倍さんは、人の意見に対して「聞く耳」を持った人です。それも真摯(しんし)に聞くから、僕もホンネで話す。度々、首相官邸などで安倍さんに会っていたし、電話は、しょっちゅう。よく意見交換しましたねぇ。

《集団的自衛権の解釈変更を安倍政権(第2次)がやったことはすでに書いた。選挙に勝ち、株価を上昇させ「1強」といわれる盤石な政権だったからこそ可能だった》

まさに、日米安保の中で日本が主体性を発揮することにつながる。僕は、これをやった安倍政権(※特に第2次)を大いに評価していますよ。

ただ「安倍1強」となって、異議を唱える議員がいなくなったり、「アベノミクス」があまりうまくいっていなかったことは、安倍さんも分かっていたんじゃないかなぁ。

安倍さんの再々登板があったかどうかは分かりません。でもあの最期(令和4年7月、遊説中に銃撃され死亡)だけは…。(聞き手 喜多由浩)

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