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客からの執拗な性的要求、拒みにくく…「ギャラリーストーカー」、男性も被害に

産経ニュース 2024年8月25日 8時0分

画廊などに作品を展示する作家らが、客から執拗(しつよう)にプライベートなことを聞かれたり、性的関係を求められたりする被害に悩まされるケースがある。「ギャラリーストーカー」などと呼ばれるが、女性だけでなく男性が被害に遭うことも。自身の作品にお金を払ってくれる客のため拒絶しにくいという状況につけ込む手口で、識者は「制度としてきちんと守る仕組みが必要だ」と強調する。

男女3人から

「ホテルに行かないか」「チューだけでも」。日本画家の福井安紀さん(53)は、30代前半と40代の頃に客の女性2人と同業の男性1人から、そう言い寄られた経験がある。

女性のうち1人は、数年間個展に通い、作品も購入してくれる大事なリピーターだった。だが、次第に会場やメッセージで食事に誘われるようになり、性的な関係までも迫られるようになった。福井さんは「その気はない」などと丁寧に断るも、誘いは半年間近く続いたという。

誘いを断ることで、自身の活動に影響が出る不安もあり、応援してくれる客はないがしろにはしにくい。福井さんは「リピーターの人は、作家のことも気に入った上で作品を買ってくれている」とし、「多くの人と出会えば、こうしたことはある」と実情を語り、被害を防ぐ難しさを指摘した。

活動休止も

表現の現場では、表現者に対し、しつこく個人情報を聞き出そうとする行為や性的な言動、盗撮などが横行し、被害で活動を休止するなど深刻なケースも出ている。

美術家らでつくる「表現の現場調査団」が今年6月に発表した調査では、美術や音楽など14分野の現場で働く人が、それ以外の人と比べてハラスメント被害の経験率が高かった。特に「キス・抱きつく・性的行為を求められる」などのセクシャルハラスメント被害は、男性の割合が女性を上回った。

体験談では、映画・映像関係の30代男性が「不意に中年の女性に乳首をつままれた」や、美術家の技術スタッフだった20代男性は「マネジャーから性的関係を求められ断ったが、無視されるなど関係が悪化し、仕事を失った」といったものがあった。

調査に協力した一般社団法人「チキラボ」の特任研究員、中村知世さんは「男性同士に限って考えると、性的な理不尽行為が『いじり』や『ノリ』として気軽に行えるものだと認識されている可能性がある」とし、男性の性被害は見過ごされがちだと指摘する。

立場の弱さ課題

対策に行政も乗り出している。昨年10月に東京都歴史文化財団「アーツカウンシル東京」が、芸術文化の分野でのハラスメント被害に関する相談窓口を開設した。都と共催で、芸術文化の知識や経験を持つ相談員や弁護士らが対応する。

表現の現場でハラスメントが横行する背景について、日本労働弁護団常任幹事の笠置裕亮弁護士は「表現者が組織などから守られていないことが挙げられる」とする。

職場でのハラスメントは、法律で雇用主に防止措置を講じることが義務付けられている。だが、社外のフリーランスは対象にはならず、フリーランスの表現者が被害に遭いやすいとみられる。

今年11月に施行されるフリーランス保護法では、企業など発注者に対しハラスメント対策などが義務付けられるものの、ギャラリーストーカーは客の多くが個人であるため、笠置氏は「この法律が機能しない場面があるのではないか」と指摘。「政府主導の指導が求められる」とした。(村田幸子)

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