《輸入通販するシルクのイメージキャラクターに松方弘樹さんを採用した。第1弾となるシャツの広告は、松方さんが沖縄沖で豪快なマグロの一本釣りをする写真で彩られた》
広告撮影の日、沖縄の沖合は波が高く、松方さんが着ていた広告用のシャツがビチャビチャになった。でも引き締まった表情の松方さんがグイッと釣りざおを引いた写真はすごくかっこいい。ビチャビチャもちょっとした色気になるかなって。で、新聞広告を出した初日、ガンガン電話が鳴るもんだと思い、オペレーターさん全員に出社してもらいました。ところが、電話は一向に鳴らない。40回線も用意したのに、どうなっているんだ、と。
午前9時から1時間で1、2本、午前中で4本だけです。胃が痛くなりました。そこにお昼ごろ、松方さんから電話があった。「どう、社長? 電話がバンバンかかってきて大変だろ。がんばれよ」って。「はい」と言うしかありません。で、2日目以降に注文が急増するわけはありません。でも毎日、松方さんから「売れているか?」って電話がかかってくる。「ありがとうございます。好調です」と言うしかありません。もう勘弁してと、松方さんと連絡が取れないよう、モーリシャスに逃亡です。現地ではマグロを釣っていました。
《なぜ売れなかったのか…》
あんなにいい写真なのに、僕がモデルだったときの方が売れるわけです。これはなぜか。考えたところ、どうも写真がかっこよすぎたんじゃないか、と。かっこいい松方さんばかりが目立ってしまい、肝心のシルクのシャツに目がいかないわけです。ビチャビチャだしね。シャツの次は秋のブルゾンです。で、ブルゾンでは松方さんだけでなく、商品にも目を向ける写真にしなければ、となった。
いよいよブルゾンの広告撮影です。松方さんは「またクルーザーで釣りかい?」と言うので、「ブルゾンなので釣りはやめましょう。海岸を散歩するのはどうですか」と提案しました。「釣りざおを持って?」「いえ、『犬を連れて』でどうですか?」。すると松方さんは「松方弘樹といえば釣りざおか日本刀だろ」と言う。ブルゾンに日本刀はありえません。で、僕は「ここは犬の散歩でお願いします」と説得したんです。
松方さんは「分かった。じゃあ、ドーベルマンを用意してくれ」と言う。でも僕は大型犬よりも、チワワみたいなかわいい犬を抱っこしているほうがいいと思ったの。コワモテの松方さんとの対比が出るのでは、と。で、「松方さん、こうしましょう。ドーベルマンを連れているのと、チワワを抱っこしている、2通りを撮りましょう」と提案したんです。
2通りの広告を配ったところ、やはりチワワの広告のときの方が電話が多かったんです。松方さんとは、売れたらギャラをアップするとの約束でした。ブルゾンの売り上げはかなり好調で、ようやくギャラをアップすることができました。
《松方さんの出演で、シルクの売り上げは伸びていった》
松方さんとの仕事が2年目に入ったころでしょうか。シルクの作務衣(さむえ)を売り出すときに、松方さんは「社長、ここが世界に羽ばたくチャンスだぞ。日本の作務衣を世界に売りだそう」と言う。やりましょうとなったのですが、「撮影はまずパリだな。シャンゼリゼ通りを俺が歩くのはどうだ。あとはニューヨークのマンハッタン、銀座と中国かな」と言いだしたので、慌てて止めたりね。でも豪快だけじゃないんです。CM撮影で松方さんの言葉に僕が首を縦に振ったら、「社長、テレビでは首を振ると視聴者は集中できないんだ。首は固定しないと」と教えてくれた。今でもこの教えは守っています。細かい気配りもできる人でした。(聞き手 大野正利)