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「まだ夢の途中」本物の洋菓子伝え続けて50年 洋菓子研究家・今田美奈子さん TOKYOまち・ひと物語

産経ニュース 2024年9月6日 21時30分

「少しほっとする、夢を与えられるのがデザート」。正統な洋菓子やケーキをヨーロッパで学び、日本へ伝えた洋菓子研究家、食卓芸術家、今田美奈子さん(89)。この世界に踏み入れてから今年で50年になる。書籍の出版や教室を開くなどして、「本物」を伝え続けた今田さんは、「まだ夢の途中」と麗しく目を輝かせる。

新宿高島屋(東京都渋谷区)4階にある優雅なサロン「サロン・ド・テ・ミュゼ イマダミナコ」。平成21年に開店した、今田さんが広め伝えてきた世界に浸れるティーサロンだ。欧州伝統菓子のクグロフやスコーン、ドイツの黒い森のトルテ、チーズケーキなどのお菓子を味わえる。店内には食卓芸術のコレクションのほかシュガーデコレーション、アンティークピアノ、19世紀のステンドグラスなども飾られ、まさにミュージアム。

36歳でスイスへ

5人姉妹の長女として育った今田さん。子供時代に過ごした神奈川県湯河原町の洋館では、友人や町の人々を招き、パーティーが行われることが多かった。「母が見よう見まねで洋菓子を作り、おもてなしをすることが楽しかった」と、幼少期からおもてなしの心を養った。

「海の向こうには素晴らしい国が、広い世界がある。面白そう」。結婚し2児の母となった今田さんは、スイスの州立製菓学校へ研修する機会があることをママ友から聞き知る。専業主婦だったが、家族が背中を押してくれ昭和46年、36歳でスイスへ。パティシエらに交じり、欧州各国で洋菓子の世界や文化、味と伝統的な製法を学んだ。

当時の日本にはアップルパイやショートケーキなどはあったが、本来、洋菓子はそれぞれレシピが決められ、それが何世紀も伝承されている。正しいレシピや背景なども伝えたいと、帰国後、「ぶきっちょにも作れるケーキとクッキー」(主婦の友社)、「お菓子の手作り事典」(講談社)などの書籍を出版。「ブームのように売れ」(今田さん)て、女性やパティシエらに多大な影響を与えた。

婦人誌「non-no」(集英社)ではチーズケーキを欧州の家庭で作られている伝統的なレシピで紹介したところ、一大ブームに。当時の編集長から「伝統は永遠の流行です」という言葉を贈られ、根本に伝統があるからこそ受け入れられると確信した。

教え子2万人超

テレビ番組の出演や百貨店の催事などで洋菓子を伝える一方、教室も開いた。全国を巡り、これまでの教え子は2万人以上にも上る。

原宿に常設したレンガ造りの教室「薔薇の館」には多くの著名人も通った。シュガークラフトで作られたウエディングケーキを英国で学び、教え子の結婚式のために製作したこともある。

贅沢三昧という批判がある半面、デザートを発展させたマリー・アントワネットの研究にも没頭。自ら城主になって欧州上流層の儀礼などについて造詣を深めた。シラク元仏大統領から「フランス人よりフランスを知っている」と賛辞を贈られ、平成15年にフランス芸術文化勲章を受章した。

「デザートはその国のおもてなしに欠かせないもの。おもてなしの心、華やかさがデザート」と役割と魅力を語る。「日本人は器用だから新しいスタイルを生み出している」と、創造も否定しない。

「自分に自信を」

日本洋菓子界を先導してきた今田さんだが、常に今の成功を永久だと思わず、次の手を打ってきた。幼少期には1年ほど病気で動けない時期もあり、波乱に満ちた人生だった。「悪いことがあっても我慢して前向きに切り替えると、また良い縁や運がやって来る」。激動の今、「自分に自信を持ち、期待を持つ。年齢に関係なく希望や夢を持って」と話す。

来年90歳。「今ちょうどこの年齢で夢の半分」だそうだ。「成功したものはたくさんあるけれどこれから」。今は、「そこへ行けば心癒やされ美しい未来の希望が持てる、伝統文化のようにしっかりしたものが根付く場所が欲しい」という。まだまだ夢に向かって進む。(鈴木美帆)

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