――日本の新聞の発行部数は、世界的にみてどうなんでしょう。
渡辺 細かくいうと、日本は千人当たり五百七十六部で、これは世界最高です。
ドイツは非常に勤勉な国民で、日本と同じような壊滅的戦災を受けながら著しく復興しているが、新聞の普及率からいえば、千人当たり三百二十四部。
――日本とずいぶん差がありますね。
渡辺 日本に次いで第二位は、三百五十一部のイギリス。
イギリスとドイツの違いは、戸別配達がなくなると一体どういうことになるかということとも関連してくるんだが、ドイツの戸別配達率は全国紙が七〇%、地方紙が九〇%かな。イギリスはそれがずっと落ちます。そのために読売や産経のような高級紙は全部で二百万部しか出ていない。タブロイド判のイエローペーパー的な新聞が二千万部も出ている。だから総発行部数でいうと確かにイギリスは多い。
しかし、文化的な水準からいうと、イギリスはまだ貴族院(上院)が残っているような階級社会ですから、エリートだけが高級紙を読んでいる。伝統的に貴族とか上流階級でなければ、あるいはオックスフォード、ケンブリッジを出ていなければ指導者になれないというような国で、ウエーターの子供はウエーターというような階級的固定性があるんですよね。
日本は小学校しか出ていない人間が総理大臣になれる国ですが、イギリスでも最近そういうことが起きつつありますけれども、階級間の流動性は小さい。そういうところでは高級紙は発達しないんです。
日本は階級間の流動性があって、貧乏人の子供でも勉強さえすれば総理大臣にでもなれる。金持ちの子供でも勉強しなければ窓際族で終わっていくというような無階級社会です。僕はこのへんは新聞の普及率と相関関係があると思うんですよ。
――とくに戦後の場合、民主主義の大事な要素の一つである言論の自由に関して、新聞が戦後果たしてきた役割は大きい気がしますね。戦前の知識水準を上げてきた実績より、むしろいまのほうが社会的機能、公共性は高いのでは。
渡辺 一般的に犯罪が多かったりする国は、新聞の発行率というものは非常に低いんです。日本は犯罪発生率が世界一低い。犯罪の検挙率が世界一高いのも日本ですよ。いま人口当たりの新聞発行部数を言ったけれど、一世帯当たりでいえば一・二部ぐらい普及しているわけです。最近、無購読世帯が出てきて心配してますが、ほとんど全世帯に新聞が行き渡っている。これは、犯罪抑止力になるんですね、明らかに。
――新聞の発行率は犯罪率とも相関関係があるということですか。
渡辺 たとえば、凶悪犯の写真だって新聞に出るし、犯罪手口も出るし、現場写真も出る。警察情報も詳しく報道されるから、凶悪犯罪人を逮捕するための情報提供なども新聞報道をきっかけにして捜査当局に集まる仕組みになっている。
経済政策の面でも、失業者とか、失業率も日本は非常に低い。最近ちょっと上がっているけど、とにかく非常に低い。ホームレスも世界的に一番少ない国ですよね。 (文化部長 小林静雄)