2025年大阪・関西万博に大阪府市や経済界が出展する地元館「大阪ヘルスケアパビリオン」の敷地で、水産養殖と水耕栽培を組み合わせた施設「アクアポニックス」を披露する。養殖魚の排泄(はいせつ)物を水中の微生物が分解し、野菜などの植物が養分として吸収することで水を浄化する循環システムだ。
1980年ごろから米国を中心に研究が進められてきたアクアポニックスは、環境を保全しながら食料を生産するという地球規模課題の解決に貢献する技術として注目されている。
万博で展示する「生命(いのち)の湧水(いずみ)」(仮称)では上部の透明な球体(直径約7メートル)でリーフレタスやトマトなどの栽培を、下部の複数の水槽でチョウザメやマダイなどの飼育を想定している。魚の餌にはハエの仲間であるミズアブの幼虫を使い、自然界をモデルにした「自給・循環型」の理念を打ち出す。
循環型施設の利点として水や肥料を節約でき、乾燥地域での活用や、将来的には月面での実用化を目指している。通常の農業のように広大な土地を必要としないので、都市部の倉庫などで生産できることもメリットの一つだ。
当然課題もある。魚が成長して排泄量が増えた場合、十分に成長していない野菜などでは養分の吸収が追い付かず、水中に排泄物が残って循環システムがうまく機能しない。魚と野菜の成長の速度を合わせるなどして、排泄と吸収のバランスを安定的に維持するシステムを構築することが重要になる。
需給のアンバランスの問題もある。日本の食卓に上ることが多いのは、海の魚。海水魚をアクアポニックスで養殖するとなると、塩分に強い野菜を組み合わせる必要があるが、塩分濃度が高い水で育つ野菜の需要は限定的だ。
こうした状況を踏まえ、現在は(ビタミンやミネラルを豊富に含み、海外でサラダなどに供される)シーアスパラガスなどの栽培研究が進められている。
日本でアクアポニックスの認知度はまだ低い。約5カ月後に迫った万博は、自給型の食料生産を周知し、特に次世代を担う子供たちに食料生産や環境保全について学んでもらう好機だ。万博閉幕後には社会実装に向けて大きく前進すると信じている。(聞き手 宇山友明)
きたや・よしあき 大阪府立大(現・大阪公立大)大学院で農学博士の学位を取得。千葉大助教授、府立大教授などを務め、主に建物内での農業生産システムや宇宙空間での食料生産などを研究。令和3年から大阪公立大植物工場研究センター長。大阪府出身。68歳。