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日本人の手で新しい日本を 失われた30年でついた差は大きい バランスよい規制緩和を 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<29>

産経ニュース 2024年9月30日 10時0分

《最終回になった。今の日本について言いたいことは》

最後の回なので遠慮なく思いつくままを話す。若い人と話すとみな、日本は変わらねばならないという。失われた30年で世界とついた差が大きい、規制緩和が進まなければならないという。しかしバランスが必要だ。相撲以外の格闘技はたいてい重量制を設けている。規制がなくなれば大きく強い者が有利になる。シャッター街が増えたのは米国の要求もあり、通称大規模小売店舗法の規制がなくなってからだろう。

世界で右傾化が進む背景は不平等感だ。米国などは1990年にはトップ0・1%が国富の1・8%を持っていたのが、2023年にはなんと18%だ。この轍(てつ)を踏まないよう相続税、累進課税などの税制をしっかり維持することが大事だ。富裕層が外国に逃げ出して税収が減ってしまうなどと懸念する者もある。そういう懸念のために国の基本を崩していいだろうか。

また日本は明治維新以来、低学費の国公立の教育をハイレベルに維持することで有為な人材を育ててきた。これも維持すべきだ。外国に行って帰るといつも日本の暮らしやすさに感嘆する。私はアカセキレイ(安全、確実、清潔、規律、礼節の頭文字)と呼んでいる。

《今のままでいいと言うのか》

単に今のまま維持すればいいと言っているのではない。日本を強くするために、新しい産業政策の一環として本格的なシリコンバレーを官民協力してつくるべきだ。シリコンバレーにならってコンピューター、机は使い放題、成功したインストラクターがボランティアで指導する。毎月、アイデアコンテストをやり、上位入賞者には企業から引きがある。生活費も一部支援される。

すでに大学や地方自治体単位でやっているかもしれないが、国全体としてしっかりした体制をつくるべきだ。ベンチャーに進む人が増えている今、こうした基盤ができればと思う。

また研究者が海外流出してしまわないよう研究費増などの対策も急務であろう。

《外国支援に関し、何か新しい考えはあるか》

外国において日本のスカラシップを提供するのがいいと思う。今米国の大学に送るのがはやりだが、ちょっと違う。その生徒が自国のトップクラスの国公立大学に行くことを支援するのである。学費も生活費もはるかに低額で済む。ハーバード大学に1人送る費用で数十人の学生を支援できるのではないか。高専など日本の教育制度の輸出は好評だが、それに加えて大規模に日本国としてこれをやるのである。日本のおかげで大学進学できたという途上国の恵まれない家庭の子女を支援する。もちろん日本国内の学生への支援も充実させながら行う。

《ほかに外国との関係であるか》

大阪万博、横浜国際園芸博を成功させた後はいろいろなイベントのホストに自ら手を挙げるのをやめて、他の国の立候補を助けてはどうか。この60年間に夏冬のオリンピック、パラリンピック2回ずつのほか、ラグビーの世界大会、万博、愛・地球博、花博、海洋博と数年に1度は大きな世界的行事を主催してきた。オリンピックは日本の後はパリ、次はロサンゼルスである。日本がグローバルサウスの味方を標榜(ひょうぼう)するなら、先駆けて途上国開催を支援する側に回ったらどうだろう。

われわれには豊富なソフト、ハードのノウハウがある。これらを提供する。情けは人のためならず、という。このような日本の対応はいずれ評価され、続く国も出てこよう。その先駆けとなるのである。日本の人づくり、海外の人づくりに一層の努力を傾注することが新しい日本づくりになる。また自ら主催せず他国のイベントを助けるという、これまであまり他国もやってこなかったことを開拓することで新しい日本像が結ばれるだろう。日本のいい点を維持しつつ日本自身の手で強化すべきはするという精神で進めていこう。(聞き手 内藤泰朗)=明日からジャーナリスト、 田原総一朗さん

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