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味わい究める女性醸造家の躍進 日本ワイナリーアワード最高の☆☆☆☆☆に輝く 

産経ニュース 2024年7月21日 9時0分

間もなく五輪が開幕するフランスは言わずと知れたワイン王国。一方、日本でもワイナリーは増加傾向にある。先月、優れたワインのつくり手を表彰する「日本ワイナリーアワード」が開催された。注目されたのは、ブドウの栽培から醸造まで責任を持ち、ワイナリーを支える女性たちだ。

国内醸造所は10年で2・5倍

ワインの味ではなく、ワイナリーそのものを評価する賞で、今年で7回目を迎えた。主催する一般社団法人「日本ワイナリーアワード協議会」の代表理事、遠藤利三郎さん(62)は、「国内のワイナリーはこの10年間で2・5倍以上に増えました。ますます難しくなるワイン選びの指標として(賞が)定着しつつあります」と話す。

審査は原則、設立5年以上の国内ワイナリーが対象。今年は329軒を酒販店や飲食店の代表者らが審査し、258軒が表彰された。最高評価に当たる「5つ星」は17軒。昨年から1軒増え、過去最多になった。

先月、東京で行われた表彰式の壇上には女性の姿が目立った。「国内でも女性醸造家が少しずつ増えています。作業の機械化が進んだのも大きな要因です」と遠藤さん。さらに「女性は作業が緻密で、ワインの品質にブレが少ないですね」とも評する。

サミットで供され話題呼ぶ

「国内ではおそらく、私が女性で初めての栽培・醸造責任者だと思います」

そう話すのは、大正9年創業のタケダワイナリー(山形県上山市)の5代目、岸平典子さん(58)。

蔵王連峰の麓に広がる自家農園は豊かな生態系が息づき、キジの鳴き声も。キジはワイナリーのロゴにも描かれている。「先代の父のアイデアです。自然農法を模索する中、キジがすめる環境を守りながらブドウをつくり続けたい、という思いが込められています」

大学卒業後に渡仏し、4年間の修業を経て帰国。父と兄のもとで本格的に醸造家の道を歩み始めた。自分の色を出そうとスタンドプレーに走ると、兄に「われわれは歴史の礎に過ぎない」とたしなめられたという。

国内では初めて欧州系品種のシャルドネで、シャンパンと同じ瓶内二次発酵による発泡ワインの醸造に成功し、新たな時代を迎えようとしたとき、兄が急逝。33歳で栽培・醸造責任者に就任した。遺志を受け継いで手掛けた発泡ワインが、平成20年の北海道洞爺湖サミットの昼食会で供され、大きな話題を呼んだ。

「日本のワインづくりはまだ黎明(れいめい)期。やらねばならないことが山積みです」

日本固有種の「甲州」を世界に

国産ブドウを使ったワイン生産量で全国一を誇る山梨県は、「5つ星」ワイナリーも最多。「グレイスワイン」のブランド名で知られる「中央葡萄(ぶどう)酒」(甲州市)は、海外からも高い評価を得ている。

26年に世界最大級のワインコンクール「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で「キュヴェ三澤 明野甲州」が、日本初の金賞を獲得。以降も受賞を重ねて、甲州ワインを世界に知らしめた。

4代目の長女で、栽培・醸造責任者を務める三澤彩奈さん(43)は、「信念を持って可能性を突き詰めていっただけ」と控えめに語る。

1千年以上の歴史があるとされる甲州は日本固有の白ブドウ品種。「この上なくピュアな品種」(三澤さん)で、繊細さが引き出せれば唯一無二のワインになる-。そう信じて甲州とひたすら向き合ってきた。日本で仕込み作業が終わると、季節が逆の南半球の産地へ出向いて腕を磨き、試行錯誤の末に優雅で繊細な味わいをつくり出した。

有機栽培にも挑戦し、「自然を享受して、ブドウ畑の一部になっていくような感覚が芽生えました。これからも一緒に成長していけたら」。 (榊聡美)

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