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「花王子」動画でブレイク 東京・世田谷市場で競り人20年の郷古渉さん

産経ニュース 2024年7月31日 20時57分

世田谷市場(東京都世田谷区大蔵)で花卉(かき)の「競り人」として働く、郷古(ごうこ)渉さん(43)。全国各地の生産者のもとに足を運んで状況の確認や相談に乗り、多様な知識を身につけ、感覚を磨いてきた。ただ売買を成立させればいいのではなく、より高値が付くように計らうことが、生産者に報い、業界の発展につながる。「いいものをいいと評価したい」と仕事への熱い思いを語る。

幼少から身近

朝7時、世田谷市場の競りが始まった。競り人が横一列に並び、後方に置かれた大量の花や植物を1つずつ競りにかける。今は、買い手は市場外からも参加するため、場内の買い手も手元の端末を操作する。

バラの順番になり、郷古さんが前に立った。花を段ボールから取り出して掲げ、掛け声を出したり、独特の指使いをしたりして、次々と商品を売りさばいていった。

「世田谷花き」に勤め、20年。バラ一筋にやってきた郷古さんだが、入社の直前まで「仕事として花に携わることは考えたことがなかった」。

大学卒業後に入社した会社は3カ月で退職。幅広く職探しを始める中、手にした情報誌に、世田谷市場で花の競りなど行う現在の会社を見つけた。

母が事務職として花市場で働いていたこともあり、自宅の庭に花を植えたり、学校に持っていって飾ったりするなど、子供のころから「花は身近な存在だった」。母に、人と接することが好きな性格が「花の仕事に一番合ってる」と後押しされた。入社すると担当がバラになった。

生産者と関係築く

同社は、花や観賞用植物を生産者から仕入れ、オークション(競り)方式や事前販売で生花店などに卸している。生産者とはこまめに連絡を取り合い、市場の状態や購入者からの反応などをもとに、良い買い付けをすることが腕の見せ所だ。

入社直後は「花に関して全然わからなかった」が、市場にいる生花店や生産者に質問したり、本やインターネットで勉強したりした。

「直接会って話さないと生産者からすれば信用できない」と、東京近郊だけでなく東北や九州の生産者のもとにも定期的に足を運び、花の栽培や管理などについて教えてもらいながら関係を築いた。

20代の頃は体力的にしんどく、転職を考えて履歴書を書いたこともあったが、会社の先輩を含め人間関係に恵まれて「踏みとどまった」と笑う。

5年前、花業界での人材交流を図っていた農林水産省に1年間出向。花に関する情報収集などの業務にあたっていたが、広報戦略の一環で、動画サイト(ユーチューブ)上に「花王子」として出演して話題となった。「生産者の方に一番喜んでもらえたのでやってよかった」と話す。

バラの魅力は「やっぱり香りが一番」といい、「競りの時にも近づくと香りを感じてストレスが緩和される」と今では欠かせない存在だ。今年からはカーネーションも担当する。「花形もかわいいし、母の日があって子供も買いやすい良い花。日持ちもするので飾るといいと思う」と絶賛する。

「花は究極、なくてもよいもの。だけど自然のものだから無意識的に美しく、きれいだと感じる」と郷古さん。普遍的な価値を説くとともに、「花があると心が安らぐので、ご家庭でもぜひ飾ってほしい」と〝効果効能〟もアピールした。(梶原龍)

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