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「どの駅も博多並み」 地方の大都市からも若い女性が東京へ 人脈、仕事…圧倒的な魅力 私たちが子供いらないと思う理由

産経ニュース 2024年10月12日 12時0分

日本の少子化問題の最大の課題は、地方に住む若い女性が東京圏へ大量流入している現状のトレンドを食い止めることだ。地方では大規模な政令指定都市でさえ、東京へ吸い込まれていく女性が多い。上京後は、高い生活費や子育てに厳しい住環境から、結婚や妊娠・出産への意欲が薄れる。逆に、若い女性が減った地方は少子化が加速するという悪循環だ。そもそも、なぜ地方の女性は東京を目指すのか。その際、「子育て」という選択肢が脳裏をよぎることはあるのかー。

喜多亜子、29歳「最新のお店に興奮」

東京・新宿区の飲食店で働く喜多亜子(29)は、地元の福岡市で大学まで過ごしたのち、平成29年に上京した。5人きょうだいの長女。両親と一家7人、ひとつ屋根の下で過ごす中で、とにかく「1人暮らし」に憧れた。大阪や名古屋などでの就職も考えたが、「どうせなら一番大きなところで」と見定めた。

福岡市は人口160万人を超える九州最大の政令指定都市だ。ファッションやグルメなど若者向けのコンテンツもあふれている。それでも、就職活動の合間に訪れた東京の原宿や渋谷、表参道の街並みは、故郷とは明らかに違った。

「情報番組や雑誌で取り上げられている最新のお店が現実にそこにあり、実際に利用できることに、シンプルに興奮した」。そこかしこにきらびやかな雰囲気が広がり、「どの駅を降りても『博多駅』という印象だった」と振り返る。

人との会話やコミュニケーションが好きで、営業職を希望した。最初は都内の中古車販売会社に就職し、フードデリバリーサービスなどを手掛けるベンチャー企業などを経て、今は現在の飲食店で正社員として勤務している。

田舎より高い生活コスト

喜多は今、29歳となったが、交際相手はいない。結婚や出産の具体的なイメージも湧いていない。

「もともと1人が好きな性格だ。将来的に、この人だなという人が出てくれば、考えるかもしれない」。地元の友人らは大半が結婚し子供も授かったというが、「焦りも特にない」と語る。

総務省の調査によると、昨年に東京に転入した20代の女性は11万人超で、転出者よりも4万人以上多かった。出産適齢期の女性が毎年、大量に流入していることを意味する。

一方、日本では未婚の男女間に生まれた子供(婚外子)の数は非常に少なく、統計的には、婚姻数の増加が出生数増に直結する。人口の一極集中が進む東京での婚姻増が、人口減少を食い止める最大のカギとされるのはそのためだが、首都での暮らしにはハードルも少なくない。

例えば、民間調査会社のまとめによると、東京23区内では、新築マンションの平均価格が昨年1億円を超えた。賃貸住宅の家賃も高騰しており、若い夫婦と子供が過ごしやすい広さの住環境は整えにくい。地方では得られやすい両親や親族らの支援も上京後は受けづらく、子育てに孤軍奮闘する女性は多い。

東京で「つながった」

東京の少子化対策は7月の都知事選でも争点となり、3選した小池百合子知事は保育料の無償化を「第1子から」に拡大するなど、子育て世帯への経済支援強化をアピールした。

一方、個人の価値観で判断すべき結婚や出産などを、行政が前のめりになって促すのはなじまないという意見もある。

喜多は「国や自治体がアイデアをひねり、若い人向けにアプローチしていることは、理解できる」という。しかし、それが「自分ごと」になるのはまだ先だというのが、偽らざる本音だ。

ただ、広く自分の将来設計を巡っては、1つの変化があった。「保育士になりたい」と考え始めたのだ。

東京は夫婦共働きの世帯が多い。少しの時間でも子供を保育園などに預けたいというニーズが高いことを、知人から聞いたことがきっかけだった。「自分が保育士の資格を取り、そうした需要にスポット的に応えられるようになりたい」。ゆくゆくは、飲食店員とのダブルワークという未来を描く。

実は保育士は、喜多が幼少期に志した職業だった。「昔から子供は大好きなんです」

年齢を重ねると、出産に向けたリスクが高まることは当然、知っている。ただ、生活コストなどの高さも背景に、東京での結婚、出産にはやはり現実味がない。だからといって福岡に戻るつもりも、当面はない。

「上京して7年、さまざまな出会いの中で、明確な目標が見つかった。今は、仕事や自己研鑽に人生の時間をかける時期だと思っている」(敬称略)

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