海上自衛隊下総航空基地(千葉県柏市藤ケ谷)で哨戒機「P3C」のパイロットを志す女子航空学生がいる。宮崎県都城市出身の一ノ瀬唯衣さん(23)だ。日本周辺海域の警戒監視や災害時の救援活動を通じ、国民の安全・安心な暮らしを確保するといった重要な任務を背負う。「周りに信頼してもらえる一人前のパイロットになりたい」と日々、厳しい訓練に励む。
航空祭で心奪われる
「計画運航高度は1万5000フィート」「この建物に機体のノーズ(=先端)がかかったら、ランドフラップ(=着陸に向けて翼を調整する操作)を開始」
昨年の12月初旬。実物と同様の計器類が備わるフライトシミュレーターのコックピットに座り、引き締まった表情で操縦桿(かん)を握っていた。
「P3Cは多くの隊員を乗せる。操縦桿は重く、計器類への眼の移し方も難しい。それでも、皆の命に関わるとあって、いつも緊張感を持ち、学んでいます」
訓練後も同僚と一緒に、機体を旋回させるタイミングなどを入念に確認した。
P3Cは全長35・6メートル。最大速力は時速730キロ、航続距離は約7000キロある。
パイロット2人と、戦術航空士ら計11人で構成されるチームで飛び立つ。
音響探知機(ソノブイ)といったハイテク機器を駆使し、領海に近づく船舶や潜水艦などの位置をいち早く把握する。
当初は保育士にあこがれたが、高校時代に岩国基地(山口県岩国市)の「航空祭」で、大空を駆けるP3Cに心を奪われた。卒業後、迷うことなく海自に入隊し、航空機の整備技術を磨いた。
2度目の挑戦で念願の「航空学生」になった。小月(おづき)航空基地(山口県)などで3年ほど基礎的な飛行教育を受け、昨年から下総の基地でP3Cの訓練に汗を流す。
「P3Cはアナログ感があり、滑らかなフォルムが美しいのが魅力です」
国産で高い探知能力を誇る最新鋭哨戒機P1の導入が進むなか、P3C専門の航空学生は一ノ瀬さんの世代が最後になりそうだ。
「感謝」忘れず
航空学生になりたてのころ、訓練を受けた73人のうち女性は、わずか5人。とはいえ、肩身が狭い思いをしたことはない。
「入隊時は不安もあったが、日ごろ接する教官は対等で、誰もが活躍できる環境もある。かけがえのない仲間もいる。『女性だから大変だ』とは思いません」
クラフトビールを味わうのが好きで、休日に一人で飲み歩くことが楽しみだ。
座右の銘は「感謝」。整備員だったころ、パイロットから「ありがとうね」と、そっと言葉をかけられたことがうれしかった。
そんな細やかな心配りができるパイロットに、自分もなるのが夢だ。「周りから信頼を置いてもらえるパイロットを目指します」
日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増すばかりだ。「パイロットとして与えられた任務を完遂する、との思いはこれからも変わらない。国を守る役割をしっかりと果たします」
この気構えは決して揺るがない。(松崎翼)