債権者9千人、負債総額850億円-。驚愕(きょうがく)の高利回りで資金を集めていた投資会社「エクシア合同会社」が10月、破産手続き開始決定を受けた。超低金利時代に現れた「金の卵を産む鶏」はどのようにして莫大(ばくだい)な金を集め、その金はどこへ消えたのか。
「月利3%以上」
「だまされるかもと思って投資するわけがない。信じ込んでいた」。大阪府の50代女性はエクシアに約8千万円を注ぎ込み、そして失った。
女性は数年前に父親から株式などを相続。証券会社で運用していたが、顧客ファーストではなく仲介手数料獲得が最優先という姿勢が透けて見え、嫌気がさしていた。
そんな折、知人を介しインターネット上で資産形成アドバイザーの男性と知り合う。
当時は主婦で個人収入がなかったが、子供の学費などで支出が膨らみ、「資産が多くても、お金が減っていくばかりの状況は不安だった」。そんな憂慮をアドバイザーに相談、そこで紹介されたのがエクシアだった。
登記などによると、エクシアは代表の菊地翔氏が平成27年に設立。投資金の調達には金融商品取引業の登録が必要となるが、エクシアは合同会社の社員権を販売する手法で資金調達を図っていた。投資自体はシンガポールに設立した関連会社が行い、その利息が出資者に分配されるスキームをうたっていた。
女性によると、当時エクシアが販売していた商品は1種類のみ。投資金の8割を米ゴールドマンサックスに、2割を外国為替証拠金取引(FX)に分配。女性は最初に計3千万円を投資した。「調子の悪い月でも3%以上は資産が増えていた。毎月の成績は前月からマイナスになることはなかった」とそのハイパフォーマンスを振り返る。
投資の年利目安は数%とも言われており、女性はアドバイザーから「追加はここ一択」と〝勝ち馬〟に乗ることを勧められ、5千万円分を買い増し。リスクが上昇する集中投資へかじを切った。
エクシアへの投資から約2年で8千万円は1億4千万円まで増えた。並外れた成績をあやしんだ友人から心配もされたが「自分は特別な情報を手に入れた」とエクシアを信頼し続けた。
自転車操業か
異変が生じたのは令和4年5月。エクシアから「出金手続きに時間がかかっているが安心してほしい」とメールが入った。ところが10月に出資金を引き出そうとしても出金できず、エクシアに対する訴訟が相次いで起こされていることに気づき、ようやく事態を把握した。
なぜ「超好成績」を誇るファンドが突如、出金停止に陥ったのか。民間調査会社によると、資産運用の実動部隊となるシンガポールの関連会社の平成30年時点の現預金は1万円未満だったという。こうした財務状況から、エクシアの経営実態は、出資者から集めた金を投資で稼いだように装って配当に回す「自転車操業」だった疑いが、投資家の間ではささやかれている。
出資者が落胆と不信を募らせる中、代表の菊地氏は交流サイト(SNS)などで「かけるん」と呼ばれ、その〝無邪気〟な振る舞いが話題になった。吸い上げた莫大な収益は、菊地氏が入れ込んでいたキャバクラの女性への貢ぎ物や英ロールスロイスなどの高級外車へと消えていったとみられる。
その間、出資者らは約250人規模の弁護団を結成。当初は金融機関の口座に一定の資金が眠っていたが、税金などが差し引かれると財産と呼べるものはほとんど残っていなかったという。
こうした経緯から弁護団は7月に破産を申し立て、先月に東京地裁が破産手続き開始を決定した。弁護団事務局長である小幡歩弁護士は「現物資産はそこまで残っていないだろう。現金も簡単に分かるところには残していない」とみる。さらなる追及には菊地氏個人の破産申し立てが必要となるが、出資金が戻ってくる保証はなく、慎重な姿勢を見せる。
出資者の女性も出資金の返金については半ばあきらめているといい、「知識がないのに金を増やしたいという思いが芽生え、傲慢な状態だった」と自戒を込めて振り返った。
資産形成の重要性が説かれる一方で、お金の知識を磨く機会は少ない。悪徳ファンドにだまされないマネーリテラシー向上が必須となっている。